2024年12月30日、約7ヶ月にわたりフランスで開催された、「Yuima Nakazato, beyond couture」展へ行きました。
電車に乗れば、パリから片道3時間ほどで到着するこの美術館。カレーはかつてレース産業で栄えた、フランス国内で重要な都市です。主にレースが展示されています。
最終日から営業日で数えて5日目と終盤に訪れたためか、なんと展示のカタログは売り切れでした。
どうしても欲しかったので、ネットで調べたところ取扱いのあるサイトは少なく、最終的にイタリアのアマゾンで1点のみ在庫を見つけることができました。
ブランド・ユイマナカザトとは
まず、ユイマナカザトというブランドは、中里唯馬(ゆいま)デザイナーによって2015年に設立されました。
2008年にベルギーの名門校・アントワープ王立芸術アカデミーを日本人最年少で卒業し、2016年7月以降パリ・ オートクチュール・ファッション・ウィーク公式ゲストデザイナーの1人としてコレクションを発表しています。
これは、2022年8月に亡くなった森英恵デザイナー以来、日本人としては史上2人目のことです。
展示のキュレーターズメッセージにはこのように書かれています。
私たちが普段ユニクロや百貨店で買うような、「S・M・L・XL」とサイズの決まった既成服ではなく、オートクチュールと呼ばれるオーダーメイドの服を作っています。
環境問題を懸念する中里デザイナーは、衣服の大量生産に対するソリューションとして、オートクチュールに大きな可能性を感じているためです。
質が高く、一人ひとりの体に合う服を提供することで、長く着られるものを作る。かつて既成服が生まれる前にそうであったように、「再びオーダーメイドの服が当たり前になる時代が来る」と、未来の新しいシステムのあり方を描いています。
また、コレクション制作にあたり、独自のリサイクル技術を企業協力のもと開発するなど、可能な限り未加工の新しい素材を使用しない方法を編み出しています。
なぜオートクチュールにこだわるのか?
歴史の長いオートクチュールですが、現在でもあまりに高価で、一般の人の手には届きません。個人の体に合わせて仕立てた服を手に入れることは、ほとんどの人にとって簡単ではないのが現状です。
そのオートクチュールに中里デザイナーがこだわるのは、衣服の将来的なあり方を考えるうえで、「衣服と着る人との間のエモーショナルな結びつき」を重要視しているからです。
以下抜粋の最終文は、中里デザイナーの言葉の引用です。
オートクチュールデザイナーとしての彼の特異性は、この環境問題と着用者の感覚的なつながりの向上を目指す、並外れた「実験性」にあります。
2016年から16ものオートクチュールコレクションを発表をしていますが、毎シーズンでその実験性の進化はやみません。
日本人オートクチュールデザイナーの第一人者・森英恵氏との対談で、中里デザイナーはこのように語っています。
このコレクションは、着物の襤褸(ぼろ=つぎはぎ)の発想をインスピレーションに、着る人一人ひとりへのカスタマイズの方法を提案しています。
これはほんの一例に過ぎず、エンジニアやテキスタイル企業との協業による新技術の開発、デジタルの活用など、絶えず新たな方法を模索し、実験的な提案を行っています。
2017年のこの対談ののち、実際に一般の人向けの新たなプロジェクトとして、「Face to Face」を実現させました。
これは、世界中の顧客に向けた全く新しいオーダーメイドサービスで、もっている服をユイマナカザトがリメイクし、一点ものの新しい服へ生まれ変わらせるというもの。
顧客は中里デザイナーとオンライン上で対話を行い、服とのストーリーについてヒアリングしたうえでカスタマイズを行います。
コロナ禍の2020年5月1日にスタートしたチャリティプロジェクトを基にしたこのサービスは、「できるだけ多くの人々に唯一無二の衣服を届ける」、「世界中で人々が直面している困難に対する社会貢献の義務がある」というブランド哲学と信念により生まれたものです。
売れる道ではなく独自の道で方法を模索する
「ソリューションを見つけるのにはとても時間がかかるので、今から始めないといけない」と、中里デザイナーは話します。
手っ取り早くブランドとして売れる方法ではなく、環境や社会に良い変化をもたらすと信じ、世の中に新しい方法を提示します。
アントワープ王立芸術アカデミー卒業したのち、日本でのブランド立ち上げを決意したきっかけは、先輩であり、尊敬するデザイナー・アンドゥムルメステール氏の言葉だったといいます。
「クリエイションはユニークなのに、人生は他人の道を追って生きていきたいの?」
中里デザイナーは、ヨーロッパのブランドでデザイナーとして就職する道ではなく、帰国し日本で自分のルーツと向き合うことから始めました。
現在はフランスをはじめとする世界の人々に「アヴァンギャルドブランド」と称され、革新性と実験性で衝撃を与え続けています。
中里唯馬デザイナーの特集を連載します
カレーでのワンフロアの展示では、各コレクションのストーリーが非常に深く、2時間ほど夢中になり滞在してしまいました。
今月、2025年1月のパリ・オートクチュールウィークでは、現在29のブランド(2025年1月2日)による参加が公表されています。
ユイマナカザトによる公式発表では、1月29日1時30分(CET)からショーを行うとのこと。
最新コレクションを楽しみに待ちつつ、ここでは、中里唯馬デザイナーの特集を連載していきます。
これからの連載が皆さんにとってより深いブランド理解につながり、ユイマナカザトのコレクション発表を一緒に楽しむことができたらと考えております。