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2つの視点から見る1つの話/『美人な妹と、私』『可愛い姉と、私』
※ネタバレ注意
私には姉妹はおらず、男兄弟だけがいる。異性の兄弟というのは気楽なもの。ジェンダーバイアスがかかって単純に比較されることが少ないからね。
どっちが可愛いとかどっちが美人とか、どうでもいいことに悩まずに済むという点で、姉も妹もいなくてよかったな、と思う。
ただ、こんな関係の姉妹になれるのなら姉や妹の存在も悪くないなあ、なんていう2つのお話。『美人な妹と、私』と『可愛い姉と、私』/作・ユウキ
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この2編、毒親の元に生まれてしまった伯爵家の姉妹の物語で、小説投稿サイト「小説家になろう」のヒューマンドラマジャンルで連日ランキング入りしている。
『美人な妹と、私』は姉のアマンダが主人公。親が美しい妹ばかりにかまい、自分は蔑ろにされていた中でめげずに家を出て幸せになる話。
『可愛い姉と、私』は妹のアデラインが主人公。家族の誰とも似ていない容姿や束縛してくる母親に悩みながら、家を出て自分の力で生きていくまでの話。
両作品は姉妹が協力して家を出るまでの物語が、姉目線と妹目線に分けて綴られている。母親の毒親ぶりが半端なくて読んでいてつらいところもあるが、安心して読めるのは姉と妹がお互いにお互いのことが大好きで仲良しっぷりが微笑ましいから。要するに、姉も妹もシスコンである。
そして何よりの読みどころは、同じ時系列のストーリーをそれぞれの視点から読むと、同じシーンでも違った意味や景色を持つところだ。
例えば、2人の友人かつ家を出る計画協力者の公爵令息フレディとの関係なんかがわかりやすい。『美人な妹と、私』では、3人はただの仲良しな友人たち。フレディはアマンダに好意があるもののアマンダはまったく気づいていない。それを妹のアデラインはわかっていながら微笑ましく見守っている。
かと思いきや。妹のアデライン視点『可愛い姉と、私』では、姉を取られたくないシスコンなアデラインはフレディにバチバチの敵意を持っており、常にアデラインVSフレディの牽制バトルが繰り広げられている。もちろんアマンダは何も気づいていない。本当に何も。
アマンダ視点を先に読んでほのぼの感を味わっていた私は、後でアデライン視点を読み寒気がした。まさか、あのシーンもあそこのシーンも、そんな戦いが繰り広げられていたとは……。
それからもう一つ、私が一番お見事と思ったのは、姉妹が一緒に学校へ登校するシーンである。
初めは妹の容貌に感嘆の息を漏らし、次いで横の私に眉を顰める。
妹が「お姉様」と話しかけると、驚きに目を見開き、そして嘲笑する。
そこかしこから「まぁ、姉ですって」「似ておりませんわね」「まぁお可哀想に...クスクス」といった声が聞こえ出す。 『美人な妹と、私』より引用
単純に不細工な姉をあざ笑う他の生徒たちの声、と読める。実際彼らはそのつもりで嘲笑しているのだろう。私はそういう解釈で読んだ。
けれど、『可愛い姉と、私』では同じシーンでも意味合いが変わってくる。
お上品に笑う声の合間に言葉の刺が光る。
「似ておりませんわね」「まぁお可哀想」
反射的に身体が強張った。
俯いて顔を上げられなくなった私は、抱きついていた姉に気づかれたのだろう、私の頭を撫でて「気にしないのよ、私の妹は世界一なのだから。」と心から微笑んでくれる。 『可愛い姉と、私』より引用
このとき、アデラインは姉と似ていない自分の容姿から、自分は血が繋がっていないのではないかと疑っている。そんなときに周囲にこんな反応をされたら、自分が嘲笑されていると思う。本当は伯爵家の子じゃないんじゃないの? と噂されているのではないかと。
この同じシーンでも違う景色を見せてくれる鮮やかさに、とにかく惚れ惚れする。作家の間では使われ慣れていて斬新な手法ではないかもしれないけど、そういうの関係なく「こういうの好き!」と叫びたい。
どちらの作品から読むかでこの物語のイメージも変わると思う。私は『美人な妹と、私』→『可愛い姉と、私』の順で読んだため、逆の順で読んだ場合の新鮮さは二度と味わうことができない……。これから読む人は、どちらのタイトルから読むか慎重に決めることをおすすめする。
最終的に姉妹はどういう形で幸せに落ち着くのか、フレディの片思いの行方も含めてぜひ見届けてみては。
そして私は、フレディ視点の新作を熱望します。この物語はフレディの目線からだとどんな景色なんだろう、めっちゃ気になる。
それでは。