【オンボーディング失敗体験記 vol.2】優秀な新入社員が会社に見切りをつけてしまう瞬間
オンボーディング失敗体験記とは、とある企業の新入社員が、入社後、上司とのコミュニケーションや会社の仕組みなどから、少しずつ”やる気を失ってしまう”物語です。どの会社にも発生しているかもしれない「あるある」な場面を切り取ります。経営者や人事またはマネジャーが、「新入社員が会社になじむため、適切なオンボーディング手法を学んでいく」をコンセプトに発信しております。
そもそもオンボーディングとは、新しく組織に加わった新入社員(新卒・中途の両方を指す)が、早期離職を防ぎながら、企業にとって有用な人材に育成する施策のことをいいます。もともとは、船や飛行機に新しく乗り込んできたクルーや乗客に対して、必要なサポートを行い、慣れてもらうプロセスのことを指しており、そこから派生した人事用語です。
多かれ少なかれ、新入社員が入る全ての会社は、適切なオンボーディングを実施することを求められます。適切なオンボーディングは、新入社員が心理的安全性を感じ、自社へのエンゲージメントも高まり、いち早い成果を出すことが期待できます。結果として、離職を防ぎ、定着率を上げることができます。
具体的には、スキルや知識の習得だけでなく、「暗黙ルールの理解」や「人的ネットワークの構築」が成果に結びつき、そこから得た「信頼関係」が、さらなる成果や人的ネットワークを強化させるという流れで組織適応ができていきます。
それでは、”本日の失敗体験記”を見ていきましょう!
本日の失敗体験記
〈入社前の期待が徐々に薄れていく若手社員〉
入社前…
「社長のビジョンはとても共感できるし、きっと話している感じ、役員の方々もめちゃめちゃ仕事ができる人なんだろうなぁ…!この会社で働いて、どんどん成長するぞ!!」
入社直後…
「リモート研修だけど、とりあえず他の誰よりも業務キャッチアップを早く実践しよう!教えてくれる先輩方は経験者だから、やっぱりいろいろわかっているなぁ〜」
出社・先輩同行…
「リモートだったからあまり分からなかったし、ちょっと申し訳ないけども、先輩たち、めっちゃ仕事ができるかと言えば、特別そんなことなさそうだな… 『この人になりたい!』と言えるような人はまだ出会えてないな…」
休日、会社外…
「大学時代の、AくんはC社でめちゃめちゃ働いているみたいだな、Bくんは、D社でのプロジェクトに携わっていてすごいな、大学時代から優秀だったもんな〜、ぼくも何か実績残せるようなことしないと!」
先輩とのコミュニケーション…
「先輩、キャリアについてフィードバックくれるけど、新卒入社の社員だし、外の世界知らなそうだし、あまり信用性ない気がするな〜。」
入社1年後…
「あっという間に、入社して1年か。正直もっとゴリゴリに働くかなと思ったけど、想定しているほどじゃなかったな〜。目標は十分達成しているし、まぁそこまで頑張らなくていっか。会社以外でいろいろトライしてみようかな!」
オンボーディング失敗体験記の解説
今回は、新入社員の思いを独り言のように表現しました。似たような感想を持った若手社員もいるかもしれませんね。マネジャーや上司の方は、「もしかすると、あの優秀な子もこう思っているかも…」と感じるかもしれません。
解説① “肩透かし”リアリティ・ショック
まず、今回の体験記ですが、この新入社員は、入社前の採用活動を通して、非常に高い意欲で入社を決めました。
そんな高いモチベーションで入社する若手ですが、「おや?」と疑念を持ち始めるのは、実際にリアルで先輩や上司と関わることが増えてからです。自分なりに大学時代から学外での活動やインターンへ数多くトライしていたからこそ、社外に比較先があり「自分が思っているよりも、周りはすごくないかも…?」という”異変”に気づきつつあります。
特に、昨今の働き方改革によって、働きやすい職場だけでなく、「ゆるい職場」が増えてしまっていることも関係があるでしょう。ちなみに「ゆるい職場」が増えている事象は、法律自体が「働き方改革」を名目にどんどん変化していることから、企業側にとっては致し方ない流れと言えるでしょう(ここに抗うのは得策ではない)。
話を戻しまして、今回の若手社員が感じたことを一言で表すなら、入社前の期待と現実にギャップがあった、と言えますね。このことを「リアリティ・ショック」と呼びます。一般的には、「思っているよりも大変・辛い」という意味で使われることが多いですが、今回の場合「思っているよりも”楽”」という逆のパターン、すなわち「肩透かし」のリアリティ・ショックを起こしています。優秀な新入社員ほど、この現象が起こりやすいと言えます。
ちなみに、最近よくある事象では、コロナ禍/後でのリモート中心のオンボーディング(研修)を採用している企業も多くあります。この場合、リアリティ・ショックを感じるまでの期間が少し長くなっている特徴もあります。理由は、先輩や上司との接触機会に関して、業務キャッチアップがメインのコミュニケーションとなるからです。業務キャッチアップであれば、当然、長く在籍する先輩社員の方が知識量・社内スキルが「上」となるからですね。
解説②自分の基準=社外の優秀な友人
優秀な新入社員は、大学時代に様々な活動を経験してきたことや、社会の流れとしてSNSでの発信ハードルが極端に下がっていることから、自分の基準を「社内の同僚・先輩」ではなく、「社外の優秀な友人・知人」に置いていることがあります。
よく「心理的安全性」という言葉が使われますが、そこだけに着目するのではなく、「職場のキャリア安全性」という概念も大切にしなければなりません。
キャリア安全性を紐解くと、以下3つの軸から構成されます。
・時間視座・・・このまま居続けて成長できるのか
・市場視座・・・市場で通用するのか
・比較視座・・・同世代と比べて力がついているのか
優秀な若手社員ほど、基準が「外」にあるというポイントを押さえる必要があります。
解説③ 上司のロールモデル問題
最後に、②にも通じる内容ですが、キャリア安全性を担保する際に、社内の上司でロールモデルになる人がいるかは、かなり大事なポイントです。新卒の会社を数年で辞めた人の中でも、「尊敬できる人が見つからなかった」「こうなりたい!と思える人がいなかった」という声を聞くこともあります。
今回の体験記の中でも、以下のように嘆いていますね。
実際に言われてしまうと非常にショッキングではありますが、、、これは先輩社員や新卒社員が悪いわけではなく、キャリア志向性の問題です。”仕組み”で解決していくべき課題と言えるでしょう。働き方改革 × キャリア安全性という背景から、いまの若手社員は、「会社に”不満”はないが、”不安”はある」結果、離職につながるケースは数多くあります。
耳が痛い内容かもしれませんが、『キャリアアップというポジティブな理由での離職だから…』と向き合うのを避けてはいませんか…?
特に、以下のデータでは、「入社前に数多くの社会的経験をした若手ほど、(社会的経験が少ない若手に比べて)不安を感じやすいというデータも出ています。
体験記番外編:良いオンボーディングもあった
この失敗体験記は、ネガティブなことを書きましたが、モデルとなっている経験者曰く、悪いことだけでなく、当然良いこともあったとのことでした。
本人の中では、とても感謝していることも多かったとのことでした。しかし、上記の通り、自身の基準や会社内での環境を鑑みたときに、次の環境へ移るしかない、という選択肢となったとのことです。
オンボーディングでやるべき3つのこと
今回の失敗体験記から得られる学びとして、3つの学びがあります。
1. 大学時代の経験を業務ローテに組み込む(機会の提供)
優秀な若手社員ほど、大学時代に大学外での活動をしています。
大学時代に、何かしらの経験やスキル習得をしている中で、そこをないがしろにせず、マッチする業務を見つけることがオンボーディングの中で重要なことです。もちろん会社として、大規模な異動や業務移行をするのは大変ですし、そこまでやる必要はありません。
機会の提供をするだけで、学びや見える発見が起きることがあります。
一番気をつけたいオンボーディングは、先が見えない長距離走を走らせてしまうこと。目的が見えない業務は、早期離職を助長します。短距離走を設定し、ゴールテープを切る経験を積ませ、「少し前の自分」からの成長実感を与える必要があります。
2. 本人のキャリアビジョンを見据えたマネジメントをする
新卒社員は「感情抑制傾向」が高いタイプと低いタイプに分かれます。感情抑制傾向とは、悩みや不安を周囲に打ち明けず、自分の中に抱え込む傾向のこと。
感情抑制傾向が低いタイプは、比較的すぐに上司や周囲の人と相談します。良い対策としては、相談できる人を複数名用意することです。価値観が多様化している現代で、また、マネジャー自身も得意な領域、不得意な領域がある中で、相談者を「1人」に依存させてしまうのは賢明とは言えません。他のチームの先輩社員などと繋げてあげるなど、相談事をしっかりとキャッチアップできる可能性が高まります。
一方で、感情抑制傾向が高いタイプの人は、周囲に相談をせず、自己完結で済ませようとします。そのため「調子はどう?」と聞いたとしても「大丈夫です」との一言で返ってきてしまう恐れがあります。
マネジャーがやるべきことは、まずは、新入社員が感情抑制傾向が高いタイプなのか、低いタイプなのかを把握することです。その上で、まずはマネジャー自身から自分の情報や価値観をオープンにし、信頼関係構築を行い、本人のキャリアビジョンを一緒に創りあげましょう。
キャリアビジョンを描くというと大層に聞こえますが、日々の仕事を、本人の"will"につながるように一緒に咀嚼し、コミュニケーションを取っていくことです。単に、上から落ちてきたKPIを本人に落とすトップダウンの共有ではなく、本人の内的キャリアを理解し、その目標が、どのように将来・未来に繋がっているのかを一緒に考えることが重要です。
3. ハイパー・メンバーシップ組織の中で仕事をする
ハイパー・メンバーシップ組織とは、社内の人間だけでなく、社外のメンバーや退職した社員が緩やかに繋がりながらチームを組み、進めていくことです。
上司のロールモデル問題や、キャリア安全性の話を出しましたが、社外のメンバーと関わることで、ロールモデルを作れるかもしれません。量的な負荷ではなく、質的な負荷をかけるために重要なアプローチは、
・職場の外で育てる
・横の関係で育てる
の2点に集約することができます。これが若手育成問題の本質です。
「パフォーマンスが高い若手ほど退職してしまう問題」は、今回の記事のテーマですが、囲い込みをしようとすることは、もはや不可能です。積極的に社外との接点を持つことが必要です。
ちなみに、社外活動をしている人ほど、自社への評価が高いというデータも出ています。囲い込みをしたい経営陣やマネジャーからは耳が痛いデータかもしれませんね。
【お知らせ】 オンボーディングテンプレート”Ombo”を開発中です!
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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詳細は、こちらもご覧ください。
https://note.com/ombo/n/nf619e67b22e6
また次回のnoteでお会いしましょう!
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