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真夜中の映画館
「ただいまー。今日は何観るの?」
「おかえり。えっとねぇ、これか、これが良いんだけど・・・」
「ほへ、そしたら今日はこっちにしようか」
「うぃ、ほんにゃらチケット取るね」
帰ってきた夫と一連の相談を済ませると、いそいそと夕飯を食べてお風呂に入る。
ようし、寝じたく完了!出かけるぞー!
今日は、月に一度の「夜中に映画館へ行く日」なのだ。
あとは寝るだけの身体にゆるりとした服をまとって、玄関を出る。
夜の空気を吸い込みながら、近所の映画館に向かう。
私はこの時間が大好きだ。
今日のお月さまはどうだとか、自販機の光が眩しいだとかネコが横切ったとか、たわいもない話をしながら夜のおさんぽ気分を味わう。
ほとんど貸切状態の映画館でお気に入りの席を陣取って、売店で買ったホットミルクとキャラメルポップコーンをはんぶんこしながらスクリーンの中に意識を向ける。
入り口で借りたブランケットの誘惑で、うつらうつらしてしまう時もあるけれど、それもまたなんとも幸せなのだ。
ほんとはもう、映画の内容なんてなんだって良いのかもしれない。
なんなら、コンビニへ一緒にアイスを買いに行くだけでもいいのかもしれない。
だけどせっかくなら映画がいい。
別々の人間が同じ時間を共有して、別々の思いを抱く。見終わったあと、それをお互いに見せ合って、その物語の知らなかった一面を見つける。時には全然共感できない感想を面白がったり、似た視点を見つけたり、相手の目から見える世界をちょっとだけ覗き込む。
相手のことが少しだけわかった気になる。
誰かと一緒に見る映画には、そんな魔法がある。
そこに加えて、独特の秘めやかさが加わるのが真夜中の映画館だ。
子どもの頃から、夜におでかけすることへの憧れがあった。
夜が好きだったし、冒険心や、ちょっといけない感じ(寝る前におかし食べちゃったりね)にドキドキしていた。
大人になると、夜の恐ろしさも知る。
子どもの頃の憧れを実現してみて感じるのは、夜に一緒に出かけて同じ場所に帰ってくれる人がいる喜びだった。
映画が終わり、夢うつつの帰り道。
ふらふら歩きながら映画の感想を言い合ったり、明日は何時起きだなんて話したり。家に着いたら歯を磨いて、キャラメルくさい寝息を立てて一緒に眠る。
毎月訪れる一夜の冒険。これが、わたしのお気に入り。