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東京の衝撃(前編)

私は生まれてから今まで「学区」を離れたことが無い。そのぐらい一緒のところで暮らし続けている。
場所は田舎である。どのぐらい田舎なのかは、自分では分からない。車で10分以内の場所にコンビニが4つとスーパーが1つと無人駅が1つある。もう少し広い定義で言うと、政令指定都市ではなく、政令指定都市のベッドタウンでも無い。それより田舎ということだ。
現時点で、日本で私と同等かそれ以上の田舎に住む人は、全体から見ると少ないと思う。自分から都会へ行こうとしない人の割合は、もっと少ないだろう。だから、生粋の田舎人である私から見た東京の姿は、多くの人には新鮮に映るかもしれない。

東京の情報はだいたいテレビからである。テレビの中の世界では、皆が東京について多くを知っている前提で話が進められる。私は東京の地理を知らないが、それに違和感を持たない。生まれたときからそうなのだ。だから普通に見て、テレビの中の人と一緒になって笑う。笑っているが、分かっていない。
東京は、そうやって楽しむもので、実際に暮らす場所ではない。

先日、大人になって初めて仕事抜きで東京へ行った。友だちに会いに行く、1人旅だ。
仕事が入るとミッションをこなすことに集中するため、いろんな違いに気づけない。だから今回の旅ではいっぱい、新鮮な驚きがあった。
具体的には、渋谷駅、赤坂見附駅、東京駅のあたりに行ってきた。
以下は、私の目から見た東京である。勘違いや「それは一部分であって」とか、いろいろあるかと思うが、それも含めて面白がってくれたら嬉しい。

***

渋谷駅に着いて、ヒカリエで待ち合わせと言われたので、ヒカリエを探す。外から見ると、きれいなビルに「ヒカリエ」と書いてある。でも近くまで行くと「渋谷駅」の入り口しか見つけられなくて、「ヒカリエ」にどう入れば良いのかわからない(実際には「ヒカリエ」の案内表示もあったのだが、その時は見つけられなかった)。外から見ると、渋谷駅の上の階から「ヒカリエ」に向かって、タイムトンネルみたいな通路が延びているのが見えるのだが、そもそも渋谷駅の上の階にどう行ったらいいのかが分からない。何度も行き来したあげく、結局友だちにLINEをして、迎えに来てもらった。
私にとって、駅は「駅舎」のことで、ヒカリエは「キラキラしたビルの名前」である。しかし実際は、駅とヒカリエの入り口は共通しており、入り口を入るとその中にもまちが続いていて・・・う~ん、私には説明がとっても難しい。

友だちと合流した後、私の手荷物を預けるため、友だちがロッカーを探してくれた。「渋谷駅に戻ろう」と言われたので、さっき来たところへ行くんだな、と理解していたら、全然違う信号を渡ってずんずん歩いて行く。渋谷駅じゃないのかな?駅にはロッカーが無いのかな?と思いつつついていくと、全然違う建物に入っていく。耐えきれず袖をひっぱる。「渋谷駅に行くって言ってなかった?」「そうだよ?」私としては、会話が繋がらないので不安が募るばかりである。
しばらくして、あれもこれもそれもみんな「渋谷駅」だったと分かり、衝撃を受ける。

実は、「渋谷駅に行くって言ってなかった?」と聞く前に、20人ぐらいの路上生活者の方々の前を通った。私が路上生活者を見たのは、20代のころ大阪で見た2人だけである。実物の迫力と恐ろしさ(路上生活者のみなさまのせいではない。何しろ見たことがないので怖いのだ)で、渋谷駅への疑問も重なり、実はパニックになっていた。
こんな感じだったので、友だちが「ここがスクランブル交差点だよ!」と親切に案内してくれているのに、「はあ、ここが噂の・・・」ぐらいの反応しかできなかった。交差点は交差点。テレビで見たとおり。それだけである。でも、信号をいくつも渡るぐらい大きい駅があることや、地上と同じぐらい地下に道が張り巡らされていることや、ヒカリエなのに駅って書いてあることや、新聞と段ボールで出来た家にいるたくさんのおじさま方、その脇を通るたくさんの通行人、同じく気にもせず歩いていく友だち、そんなの、ぜんぜん知らなかったのだ。

ランチを食べて少し落ち着いたところで、私の受けた衝撃を友だちに話すと、なんと友だちも私の話に衝撃を受けていた。私が路上生活者を見たことが無いことに、である。そんな友だちの様子に、衝撃を受ける私。衝撃のラリーである。私は異国に来てしまったのか。
本来の目的は、共通の友人が舞台に立つので、それを観に行ったのであった。のだが、それまでの刺激が強すぎて(実は新幹線にも相当興奮していた)、めくるめくはずだった舞台はあまりめくるめかなかった。もういろいろいっぱいだった。

宿は、劇場から少し遠いが前も止まったことのあるホテルにしていた。
赤坂見附駅で降りると、ハリーポッターの音楽が鳴っている。華やかに彩られた階段を上がると、TBS赤坂サカスと、ハリーポッターの世界に沿った美しい通りが現れる。私の知っている「駅前」はこんなのではない。これは私の定義では「テーマパーク」である。
ここも、公道なのかTBSの敷地なのかがよく分からない。以前に来たときは、TBSの打ち合わせ用ビルの中に迷い込んでしまって、恥ずかしい思いをした。
でも、それでも赤坂見附駅周辺は、仕事で来たことがある。それだけでこんなに安心するのか、と思った。

(後編へつづく)

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