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花火を聴く

夫が花火を観に行かないというので、早めに寝ることにした。
電灯を消した寝室で、花火の始まる音がした。
ふと、花火を聴いてみたらどうだろうかと思いついた。音楽を聴くように、耳を準備する。

どーん・・・・・・・・・・・
遙か遠くの夜空で、遙かな爆発が起こる。一拍の静寂のあと、・・・おーん・・・おーん・・・おーん・・・おーん・・・  と、規則的なこだまが聞こえる。大気がなめらかに波打ち、同心円を描いて広がっていく。

こだまと同時に、パラパラ、パラパラ・・・・・と、固い豆をこぼしたような音がするときもある。もう少し近くの空で、リアルに聞こえる。余韻はほとんど無く、すぐ消える。広がる同心円が音楽の旋律なら、このパラパラは装飾音のような感じだ。
どーん・・・・・ おーん・・・・・おーん・・・・・
              パラパラ、パラパラ、
この2行が同時に起こっている。

これらの音に、飛行機が出す、ゴォー・・・・・・・・という音が重なる。高度が高いため、花火のどの音よりも遙かで広い、大気の音。
近くを車が走る音が混じる。ヴイーン、ヴー。

どーん・・・・・ おーん・・・・・おーん・・・・・・・・・
              パラパラ、パラパラ
    ・・・・ゴォー・・・・オォー・・・・オォー・・・・・
                       ヴイーン、ヴー
この4行が同時に起こっている。

様々な高度で奏でられる音。異なる手触りの音。遙かな音、近い音。透明な音、ざらついた音。

どんな色が付くだろう、と想像する。視覚障害のある方に色を説明するとき、他の感覚に例えると分かりやすいと伺ったことがある。
くるくるねじりながら上がる花火の茎の部分は、ざらざらする踊りたいような色。
広がる花びらの筋は、ウキウキする色、暖かな色。円の中心は、とても熱いが故に冷たい手触りの色。
パラパラは、一瞬はじけて消える。冷たい氷に触ったときのような刺激。色も、刺激そのもののような色。
上空には煙が立ちこめ、焚き火よりももう少し固めの、こんがり焼けたような匂いがするだろう。その煙は暗闇では見えないが、花火の光を遮りながら、花火の光に照らされ、綿のように柔らかい色で見えるだろう。
車の音は、色が付くならどんなだろう。少しぶしつけな、ざらざらした色。きれいとは言えないが、親しみとワクワク感のある色に思えるのは、花火の中で聴いているからか。

花火が終わると、ジー・ジー・ジー・と虫の声だけが聞こえる。細い糸のような、縫い目のように途切れのない声。時折、ゴォー・・・・オォー・・・・と飛行機の遙かな音。耳を澄ませても、その2つだけ。

人々も帰途につき、花火で賑わっていた河川敷も、今は静かだろう。
皓々と光るコンビニや、眠り支度をする家々や、ぼんやりと流れる川や、黒々と横たわる山の上を、ゆっくりと煙はただよい、夜空に溶けていくだろう。


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