見出し画像

真夜中のほうじ茶ラテ

眠れないので、古い茶葉を使って、ほうじ茶を作ってみることにした。

夜の台所にひとり。
夫から譲り受けた、古い卵焼き用のフライパンに、茶葉を入れる。
検索したレシピを見ながら、弱めの中火にかける。
葉っぱから煙のようなものが立って、びくっとする。いや煙たくない。湯気みたいに、茶葉の水分が飛んでいるらしい。

うちは夫が料理担当で、とてもおいしい食事を作ってくれる。
台所は、夫の部屋のような気がしている。わたしは好きなお菓子を作るために、ひとりの朝食を作るために、ちょっと失礼して、台所を借りる。
昔気質の男の人が「台所は女の人のものだ」と言うのが、少し分かる気がする。夫のリズムに合うように整えられた台所。夫の佇まい。

木べらで茶葉を混ぜ、フライパンを揺らす。電灯が暗めなので、茶葉の色がよく分からない。これでいいんだろうか。
ふっと、茶葉が軽くなる。さらさらと、弱い風でも簡単に飛ばされてしまいそうな感じ。絶対熱いに違いないのに、フライパンもなんとなく心許なく、実態が無いような気がしてくる。完全に水分が抜けたのかも知れない。

若葉や果物の瑞々しさが大好きだけれど、水分の無い、この軽みもいいものだ。「吹っ切れた」というような勢いさえも超えた、どこにも無理のない軽み。
しばらく軽みを楽しんで、もう大丈夫かもしれない、となんとなく分かって、火を止めた。
フライパンからパッドに移し替える。さらさらさら、と茶葉が落ちる。

トイレに行って、台所に戻ると、部屋の中にほうじ茶の香りがいっぱいに満ちていて、驚く。こんなに匂いがしていたんだ。
急須を引っ張り出して、茶葉を入れる。熱湯を入れて30秒。
色が見たくて、白い湯飲みと耐熱ガラスのコップに入れてみる。
薄い、枯れ草と枯れ枝の色。

ふむ、飲んでみよう。そんな感じで飲んでみる。苦い。お店で売ってるみたいな、ちょうどいい苦みじゃ無くて、ほんとうに苦い。
どうやら茶葉が粉々になりすぎて、急須の網をすり抜けて、お湯に入ってしまったようだ。
試しに半分、牛乳を入れてみた。
・・・あ、おいしい。
牛乳のまろやかな甘さと、ほうじ茶の苦みと軽みが、調和している。ちょうどいいほろ苦さ。

晩秋の夜中。夫の台所を遠慮がちに借りて、ひとり、気ままな自由を楽しんでいる。


***
みんなのフォトギャラリーから、Nottyさんのイラストを使わせていただきました。自由で小さな、自分の世界。


いいなと思ったら応援しよう!