![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/73679119/rectangle_large_type_2_d1c7301565d7d9dd198a3b6dfacbe260.jpeg?width=1200)
わからないものに会う
「今回はどんな展覧会?新しくなったから、また来たわ。」
私が働いているはじまりの美術館のお客さんの中で、企画の趣旨や内容に関わらず、新しい展覧会がはじまるたびに来てくださる方たちが一定数いらっしゃる。
さらには、「ここに来ると、全然知らないものに出会えるからから面白えんだ」と何度も足を運んでくださるお客さんもいる。それは私たちにとって、とても嬉しいことだ。
靴を脱いで入る展示室の入り口には、会期中、大小様々な靴が並ぶ。
・ ・ ・
はじまりの美術館は、社会福祉法人安積愛育園という主に知的に障がいのある方の支援をしている法人で運営をしており、私も安積愛育園の職員の一人である。
はじまりの美術館では、常設の展示はなく、展示室では様々な企画展を開催している。展覧会のテーマにあわせて多様な表現を紹介している。
出展いただく作家の方も、現代美術家や障がいのある作家、民芸の職人など様々だ。
美術館という場所に行くという目的は「○○展が見たい」とか「観光で来た」など、人それぞれだと思う。はじまりの美術館も、アートや福祉、建築、まちづくりなど、様々な分野に関心がある方がいらっしゃる。
そんな中あるとき、「わからないもの」「知らないこと」を求めてきてくださる方たちがいることに気がついた。
ここでいう「わからない」は、自分と無関係のように思えるもののことである。特に大人になると、「わからないもの」は、つい敬遠してしまいがちかもしれない。
「アート」と聞くだけで苦手な人もいるだろうし、「障がい」と聞くと自分には関係のないことだと思う人も多いかもしれない。それらに様々な解釈はあっても、絶対的な答えはない。
実はそのわからないものと出会い、想像したり考えたり、話をしたり思いを巡らせたりするその過程が重要で、自分自身を深め、拡張していくチャンスなのではないだろうかと思う。
・ ・ ・
どうやったらわからないものに出会えるのか。そのひとつが美術館や博物館などのミュージアムに出かけることではないかと思う。
特にはじまりの美術館では、まだ歴史的な評価や対外的な価値化がされていないものを展示することも多い。もしかすると、「どうしてこれが展示されてるの?」と思うものも展示されているかもしれない。
だが、いずれも美術館のスタッフがこれまで出会った「おもしろい」「もっと多くのひとに見て知って欲しい」と思った人や表現をキュレーションし、紹介している。
それらはもしかするとあなたにとって「おもしろくない」ものかもしれない。
けれども、作品に添えられた言葉を読んだりスタッフと話をしたりしながら、自分はそのわからないものとどう向き合うか、考えてみてほしい。
・ ・ ・
例えば、2021年2月に、はじまりの美術館では企画展「みんなが知らない土屋康一/わたしが知ってる土屋さん」を開催した。
![](https://assets.st-note.com/img/1646554700512-Dg7KXDNT7O.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1646554673887-fJKa8fmXjI.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1646554665353-SMCeUK3kkb.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1646555105990-TyH2P3Bfeh.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1646555107110-F7WsvZdkOs.jpg?width=1200)
福島県郡山市在住で、葉っぱや花をモチーフとした作品をはじめ、様々な作品を描く土屋さんの初個展である。
しかし土屋さんの魅力は作品だけにとどまらない。
会場内では、土屋さんがこれまで描いた膨大な作品とあわせて、土屋さんと日々関わり支援をするスタッフの言葉も紹介している。
![](https://assets.st-note.com/img/1646554918889-B2m0BIi9Ve.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1646554934893-L8seNP9CAk.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1646554954209-BoWtiQtsi1.jpg?width=1200)
自宅での土屋さんと他の場所で土屋さんが異なるように、展覧会で土屋さんを紹介させていただくことで、出会った人の数だけ様々な「土屋さん」が生まれてくるのではないかと思う。
様々な角度から、土屋康一という人と出会ってみてほしいと思い企画したこの展覧会。会期は終了してしまったが、展覧会の記録集でも土屋さんに出会うことができる。片面から読み進めるとエピソードから、もう片面から読み進めると作品から。
あなたが記録集を通して出会う土屋さんはどんな土屋さんでしょうか。
![](https://assets.st-note.com/img/1646555238400-t6ri2mfTlu.jpg?width=1200)
展覧会のグラフィックデザインと記録集のデザインは関川航平さん。
星野概念さんに寄稿いただきたテキスト、日々、土屋さんに関わるスタッフ星さんによるテキスト、どちらもおすすめです。
この文章は2021年2月4日に福島民報新聞「民報サロン」に掲載された文章を2022年3月に加筆・修正したものです。