毒を吐く その15 社会見学・職業体験
さっきコンビニに行ったら、小学生5,6人が引率の大人に付き添われ、社会見学していた。背の高さから4年生くらいだろうか。丁度店に配送があった直後らしく、レジ以外の制服の店員さん達は、全員、届いた箱からの品出しで、大童。小学生達はお揃いの黄色の帽子をかぶり、お揃いの画版にプリントを載せ、熱心にメモをとっている。小学生の前に立つのは、セーターを着た背の高い中年の人。恐らく本部からそのために今日はこのコンビニに来たのだろう。慣れた口調で、コンビニの流通システムに関して、おにぎりを例に、子供にわかりやすく説明していた。
ああ、自分もやらされたなあ・・・と懐かしかった。おじさんの方の役目である。ドイツで働いていた企業の研究所では、毎年何人ものドイツの中高校生が2から3週間もの長期間職業体験に来る。これがバラバラに来るので、ひとところに任せると、そこのパフォーマンスが人手を割かれて落ちるので、沢山ある各研究室や部署に2日間から5日間回して、公平にパフォーマンスが落ちる期間を分散するのである。
ドイツでの直属の上司はイギリス人で、この職業体験をあからさまに嫌っていた。実働する部下の貴重な時間が無駄に割かれるからだ。わたしが所属していた研究室では、殆どの場合、わたしが直接の担当係になった。大体1年間で5,6人といった感じだ。2か月に2日間、仕事にならない。わたしの雇用契約は、自由裁量の労働時間なので、残業も休日出勤(必要があって随分したが)も給料に加算されない。但し、成果さえ上げていれば都合で早帰りをしても定給だし、よりいい成果を上げればご褒美が出るシステムだった。実際はドイツ語を文法的に完璧に話せるわけではないので、ティーンエイジャーの相手は不都合だろうと思ったのだが、子供からの反応を見て、上司はわたしのドイツでの研究所での滞在期間はさせていた。
ある時は、自分の子供がドイツ人学校で中三に当たる学年で、送り出す親の立場に立たされた。この時の苦労話は下記のブログに書いた。
この顛末を直接見ていた上司は、これ以降中高生の職業体験に一定の理解を示すようになった。少なくとも単なる嫌悪感から、社会貢献に対する諦念となった。
さて、中高生というのは、世界中のどこでも第二次反抗期、大人の言うことなんて!という時期だ。それでも、ドイツでも、流石に学校からの指導もあり、大概大人しく、義務である職業体験に興味のない気概は全く隠しきれていないが、それなりの態度を示す。
こちらとしては、生徒の絶対的安全確保(研究室なので薬品や器具がゴロゴロしている)と、学年と通学している学校の程度で、説明のレベルを変えなければならないので、非常に気を使う。
例えば、混合薬剤の濃度を計算させてみようとしたら、イスラム教の頭を覆う布をつけた女性(15歳)は%が全然わかっていなかった。気を使いつつ丁寧に尋ねたところ、第一子なので、学校から帰宅すれば幼い弟妹の面倒見と家事をしており、家庭学習は宿題を含め出来ない、特に数学ではわからないことが地層状態になっているらしい。こうなったら、職業体験なんてどうでもいい。体験は他の研究室でやってくれ。わたしの所に滞在する2日間で%とは何ぞやだけ理解したら万歳だ。将来買い物に行って、値下げ何%がわからなかったり、銀行の利率が理解できないと損するよ、%に男性女性もない、普通の生活に絶対必要だからと説明し、本人納得の上、小学生部分から始めた。図を使い、確認質問を嫌というほど繰り返し、2日後には、彼女は基本を完全に理解した。先生はこれほど丁寧に説明してくれない、よくわかってとっても嬉しいと、目を輝かせてお礼を言ってくれた。
一方、レベルの高いギムナジウムから職業体験に来たドイツ人の少年は、こちらが文法的に正しくないドイツ語で説明するので、「この外国人はまともに喋れないじゃないか」という内心が見え見えである(この辺が若い!)。こういうときは、こちらの専門の分類学や系統学を駆使した生物の質問をガンガンしたり、説明内容のレベルもギアもあげる必要がある。それでも少年の隠れた「完璧には喋れない外国人に対する上から目線」はなくならない。
最初に出てきた、コンビニの説明をしていた社員さんに、わたしはご苦労様ですと黙って会釈をした。金にも宣伝にもならない、寧ろ手間だけが掛かる社会貢献をこの企業もしているんだと、このコンビニに親近感を覚えた。