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毒を吐く その18 都心のカワセミ

(最初から言い訳。上の写真は、自分が住んでいる地方で写したカワセミのたった2枚のうちの1枚です。ぼやっとした青いこけしみたいなものが、携帯電話の最大倍率で撮ったカワセミです。ごめんなさい。)

先日用事があって、都心に出た。時間調整のため、秋葉原駅から、港区某所まで歩いた。わたしはとろいので、2時間の道のりであった。

途中日比谷公園の脇を通る。公園内に池があって、その周りに、物凄くちゃんとしたカメラに、重そうな長~いレンズを取り付け、長いレンズの周囲に緑系か茶系の迷彩色のカバーを巻き、重さと手振れ回避と、動く対象物に素早く対処するためと思われる一脚をつけた、10人程の人が群がっている。女性は一人だけ、あとは全員男性、若者はいない。

日曜とは言え、異様な雰囲気である。丁度被写体から目を離して、休憩していらっしゃるように見える方に、後ろからそおっと「何かいるんですか?」と尋ねたら、「カワセミですよ。」とおっしゃる。更に声を潜めて「どこに?」と問うたら、「あそこです。」と教えてくださるが、いくら目を凝らしてもわからない。「わかりません。」と小声で言ったら、気の毒に思ったのか、その場でシャッターを切って、カメラ背面の画面に対象を出して、その上拡大してくださった。
カワセミであった。背景が暗いため、輝く碧が、言い難く美しい。

と、カワセミが飛んだ。
その一瞬、カメラマン・ウーマンの全員に電気が流れ、飛んだ先に動き出した。教えてくださった方も、無言であちらに向かわれた。
一羽のカワセミを、10人程の大人が夢中で追っている。
全員の望遠レンズはそれぞれに迷彩カバーに覆われているが、全員が同時に動いたら、迷彩の意味は一切ない。
皆さん、静かだし、東京のカワセミはモデル業の達人(鳥)なんだろう、全員を翻弄しながら、普段の行いを続けているらしい。
向こうに行かれた方に、聞こえなくても「ありがとうございました。」と囁いて、先へと歩を進めた。

人は、自分を含めて、夢中になると、我を忘れて、滑稽になる。
滑稽になれるほど、夢中になれることがあるのは、幸せなことだ。


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