毒を吐く その16 ドイツの円錐
ドイツ滞在中に、それまで通っていた日本人学校から、14歳でいきなりドイツの統合学校(18歳前後で卒業すると、大学には行けないが、専門学校か職業訓練に進路をとる生徒が行く学校)に突っ込まれた子供が、ドイツ人学校1年目でドイツの円錐を体験した話だ。
何故14歳で子供が急にドイツ人学校に放り込まれたかのいきさつは、過去のブログに書いた。
14歳で、9年生(ドイツでは小中高通年で表記する)であったので、数学の授業はそれなりのレベルだ。
ある日、宿題がわからないと泣きつかれた。まあ、ドイツ人学校通学半年程度なので、問題の文章さえ良くわからないのだから仕方ない。わたしも数学は日本でしか学習していないから、「円錐」「半径」「表面積」さえドイツ語は?状態だ。
さて、問題は、円錐の展開図が示され、底面の円の半径と、側面の扇形の半径(母線)の長さだけが表記されており、表面積と体積を答えよというものだ。何を問われているのかさえ解れば、簡単だ。日本語で全部原理を説明し、表面積は超簡単。体積は三平方の定理を使うんだよと、手書きの図を使って考え方を説明した。子供は理解した。
ノートに表面積を求める式、体積を求める考え方(図)と式を本人が書いて、子供は数学の授業に向かった。
ここからは、授業を受けた子供からの伝聞である。
数学の教師は、宿題をだしたくせに、「この問題は解けなかった、誰か出来た生徒はいるか?」と問うたそうだ!え?え?え?あなた専門課程終わったんだよね?いくら解答集が付いていない資料から引っ張ったにしても、そりゃないんじゃないか?と子供の話を聴いているわたし。
授業態度が超大事なドイツの学校では、奥ゆかしく手を挙げないのは、絶対不利だが、なんせドイツ語不自由の子供は、勿論手を挙げる筈がない。
隣に座っている生徒が、子供のノートを覗き込み、式が書かれているのを見て、手を挙げ、「この子やってあるよ。」と言った。
先生は、「前に出て黒板に書いて、説明するように。」と指示した。
子供は大パニック。ノートを手に前へ出て、黒板にプルプル震える手で白墨を持って、兎も角板書した。先生は子供がドイツ語がまだ不自由なのを知っているので、式と図の意図を理解して、クラスの生徒への説明をしてくれた。
その上で、先生は「君が自分で解いたのかね?」と尋ねた。ここは子供を大絶賛したいところであるが、内心オロオロ状態でも、自分への加点には敏感に反応し、「自分でやった。」と答えた。
わたしは、そこで「ずる~い。おかあさんが説明したから出来たんじゃん。」と返答したが、14歳の子供の処世術に感心した。
下記のブログにあるように、統合学校に2年間在籍した子供は、ギムナジウム(卒業時に大学入学資格試験を受け、合格すれば、大学進学可能)に転校した。そこであろうことか、大学入試資格試験では、日本では理系の数学に相当する難易度の高い数学を選択をせざるを得なかった。ドイツ語を14歳から始めたハンディのせいだ。でも、中学生で円錐問題如きを朝飯前でない子供が、いくら仕方がないとは言え、その選択は親として辛かった。
自分も理系ではあるから、当時の小中の算数・数学のこなし方を記憶ている。それでも、大学入試で数学満点なわけなぞなく、大いに苦労した。その上、自分が大学入試のための数学と取り組んでいたのは30年以上前だったので勘も鈍っている。各単元の基本は、必要があれば、日本語で説明したが(やはり基礎知識を理解していれば、外国語での授業についていき易い)、応用問題を一目で解答するのは無理だった。
あの当時は、子供もわたしも、本当に辛かった。
今、わたしは、地元の役所の「生涯学習課」という部署がおこなっている「学習ボランティア」に参加している。中学生が対象なので、教職免許は「理科」なのだが、「数学」「英語」「理科」を守備範囲にしている。「国語」と「社会」には決して手を出さない。
「円錐の問題」を見る度に、「ドイツの円錐」を思い出す。