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くいしんぼばあさん その8 獅子柚子物語
午前中、美術館に絵画鑑賞に出かけようと、最寄りの駅まで寒気の中歩いていた。途中のお宅の庭に、背の高さを少し超す木があり、赤ちゃんの頭より大きい、皮がでこぼこの黄色の柑橘類がたわわに生っていた。ははあ、鬼柚子とか獅子柚子と言われているものだ、それにしても1本にこれだけ実ると、木も大変だなあと通り過ぎた。
庭を行き過ぎた時、丁度玄関のドアが開いて、そのお宅のご主人が庭に出ていらした。どうしようかと一瞬迷いはしたが、振り返り、道からご挨拶をして、丁寧に、おうちが背景に決して入らないようにするから、見事な果実の写真を撮らせて頂けないかとお願いした。「鬼柚子ですよね?」とお伺いしたら、全く無知の者ではないとお感じくださったのだろう。快く果実の写真撮影をお許しくださって、おうちが背景に入っていない証拠を見せようと、携帯の画面を見せようとしても目もくれず、「持って行きなさい。」とおっしゃられる。「いえいえ、それには及びません。」と辞退すると、「是非どうぞ。」とビニール袋までご用意くださる。これから電車で出かけるのでと重ねて辞退すると、では駐車場の扉になっている網格子に掛けておくから帰路に黙って持って行くようにとまで言ってくださる。そこまでのお心遣いに反するのは返って失礼かと、夕方にならないと帰路にならないが、と有難く頂くことにした。はさみを使って二個も大きなビニール手提げに入れて、ガレージ網扉に引っ掛けてくださった。
目的地で絵画鑑賞とショッピングを楽しんだ後、最寄駅からの帰り道、忘れずに扉に掛かっている大きな獅子柚子果実二個を頂き、お礼を申し上げようとインターフォンを押したら、ご主人がドアからお顔を出されたので、最敬礼でお礼を申し上げ、傾いた夕陽の中、自宅に向かった。
自宅への途上に、職業人時代の同僚の家がある。自家用車が停まっているから御在宅だろうと、呼び鈴を押して、おおきな果実一つを柚子風呂にどうぞとお分けし、自宅には獅子柚子1個が帰宅した。
先ずブラシででこぼこの皴の汚れを水洗いして、カウンターキッチンのカウンターに小タオルをひいて、載せた。
リビングだけでなく、家中に爽やかな香りが漂う。
次の日から、鍋物のポン酢に皮を少し切り取りみじん切りにして入れたり、シュウマイのつけ汁にみじん切りを入れたり、贅沢に香りを食事に生かしている。
更に皮を削ぎ、短冊切りして、お茶パックの袋に入れて、柚子湯を思いっ切り楽しんでいる。
獅子柚子の香りは、柚子に比べると、はんなりと優しい。柚子ほどの強さは無いが、まろやかさが感じられる。
高田香料株式会社というところが、シシユズの香り成分を分析をしており、技術レポートを出している。(https://www.takatakoryo.co.jp/archives/294)
大きな果実の三分の一の皮が剝がされたところで、流石に果実のワタの部分が乾いてきた感じがあったので、残りの皮を全て削ぎ取り、適当な大きさに切って、ビニール袋に入れて、冷凍することにした。
一切れずつ解凍し、短冊切りしてお茶パック袋に入れて柚子風呂にするつもりだ。
今年の冬至には獅子柚子風呂としゃれ込もう!