7-10.『僕は〈狩人〉として、みなさんを捕らえるわけだが、そもそもみなさんの行動を僕は見ることができない』
『僕は〈狩人〉として、みなさんを捕らえるわけだが、そもそもみなさんの行動を僕は見ることができない。だからみなさんが移動を一回するごとに任意のマスを一度指示する。僕が指示をしたマスを含めた前後三マスにみなさんがいた場合、僕にはそのことが知らされる。そのうえで僕はあらためてひとつのマスを指定する。そのマスにいた人は、その場で負けとなる。ただしスタート地点と、途中に二か所ある踊り場のマスだけは例外で、僕にはそのマスに人がいるかどうか知らされないし、その三つのマスを指定することもできない』
ユウイチはルールを一気に話し終えると、こちらの反応をうかがうように腕を組んで目を閉じた。
俺はカバンからペンとメモ帳を取り出すと簡単な図を描いてみる。スタートまでに少しでもフォックスハンティングの攻略方法を考えておかなくちゃいけない。
「……質問がある」
手を挙げたのはヒロムだった。
「おまえが俺たちのことを本当に見ていないという保証はあるのか?」
「もちろん保証をする気はない。あえて言えばゲームを見ている観客が不正のないことを保証する」
「ちっ。じゃあ、どう移動するのかを俺たちの間で相談してもいいか?」
『もちろん。これからのゲームすべてにおいて、自由に相談してもらって構わない」
「相談をおまえには監視できないような方法でやってもいいか?」
『無意味な努力だとは思うが、それも構わない』
「わかった」
ズボンのポケットでスマホが震えた。トシが俺を見て小さくうなずく。これからはメッセンジャーを使って攻略方法を共有する。たぶんそんな内容のメッセージをトシが送ってきたのだろう。
『では、そろそろゲームを始めよう。最初はみなさんの一回目の移動からだ』
俺は顔を上げる。目に入ってきたのは、ぬめっと光る廊下とビニールテープで作られたマス目だ。
最初の移動が一番危険なはずだ。俺はすぐには動かないように目でみんなを制してから、メッセンジャーに文字を打ち始める。この移動でミスをすれば、一瞬にしてゲームオーバーだ。
『そうそう言い忘れていた。みなさんには移動開始の合図から三分以内に移動を終えてもらう』
スマホのスピーカーからユウイチの声が流れてきた。
『つまり残り時間は、あと二分四〇秒ほどだ』
こいつ、絶対ワザと言わなかっただろ。いらだちを飲み込んで俺はみんなを呼び集める。
「……円陣を組んでくれ。話をするときはできるだけ床を見て話すんだ」
『あと二分三〇秒』
いいからちょっと黙ってろ!
「最初の移動だけは、絶対にユウイチに悟られるわけにはいかないんだ」
「床を向いて話すのは、口の動きから我々がどう動くのか読まれるのを避けるためなのだね」
しっかりと下を向いたトシがすかさずフォローしてくれた。俺は説明を飛ばして本題に入る。
「俺たちが最初に移動できる範囲は、ひとマス目から四マス目の範囲に限られる。つまりユウイチは四分の一の確率で俺たちを当てることができるわけだ。だからバラバラに移動しちゃダメだ」
「そうは言うがな。固まって動いたら、それこそ一網打尽にされるんじゃねえか?」
ヒロムの言うとおりだった。ひとつのマスに固まれば、その分だけリスクも高くなる。
俺はできるかぎり抑えた低い声でつぶやいた。
「だから最初の移動では、スタート地点から動かないという選択が有効だと思う」
「最初の移動では四分の一で当たる確率も、二回目の移動になれば八分の一になるのだよ」
「そうなんだよトシ。ただ、その確率を確実に八分の一に広げなくちゃいけない」