7-11.「どういうことなのだよ?」
「どういうことなのだよ?」
「二回目の移動で確率を八分の一に広げるには、俺たちがスタート地点から移動したとユウイチに思わせなくちゃいけない。俺たちが動いた形跡がなければ、確率は四分の一のままだ」
「で、でもそれなら二回目も移動しないで、三回目や四回目までスタート地点で待てばよいのです」
「実は待ち続けるのも危険なんだ、ジュンペー」
俺の言葉を聞いて、トシが「ああ」と小さくため息をついた。
「我々は一六回の移動でゴールにたどり着かなくてはいけないのだ。ゴールを含めたマスの数が三三マス。だから遅くても八回目の移動でスタートをしなければ絶対にゴールできない」
「それだけじゃない。八回目以降はゴールできる可能性がなくなるスタート地点よりのマスを取り除いて指定することができる。ようするにここからは当てられる確率がどんどん高くなるんだ」
「クソが。あとになればなるほど追い込まれるってわけか」とヒロムがかすれた声で言った。
「だが、どうやって我々がスタート地点から移動したとユウイチに思わせるのだね?」
トシの質問はもっともだった。全員がスタート地点から動かずに、ユウイチに俺たちが移動したと思わせる方法なんてあるわけがない。
「一回目の移動では、俺ひとりだけが動こうと思う」
それがこの短い時間で俺が考えた最善の攻略方法だった。
『あと三〇秒だ』
焦りを誘おうとするユウイチの言葉に惑わされる必要はない。あとは自分が覚悟を決めるだけだ。
「じゃあ、みんなはスタート地点で待機してくれ」
大丈夫なんとかなるよ、と続けようとしたが言えなかった。なんせ四分の一の確率で当たるのだ。
結局、俺はあいまいな笑顔を顔面に張りつけたまま、最初の一歩を踏み出した。いかにユウイチに気づかれながらも当てられないマスを選ぶか。そう考えると一マス目と四マス目の選択肢はない。なぜならユウイチが二マス目を指示すれば、ひとマス目から三マス目までの情報は手に入るものの、四マス目の情報は伝わらない。三マス目を指示すれば同じ理屈でひとマス目が伝わらない。
『一〇秒前』抑揚のないユウイチの声が廊下に響く。
「移動終了でいいよ」俺は三マス目で足を止めると、さらに話を続けた。「今度はそちらの番だ。もちろん制限時間はあるんだよな?」
『……当然だ』
ユウイチの声に見え隠れする言葉のトゲ。負けず嫌いなところはユウシと同じらしい。
『ルールでは三分となっているが一分で充分だ。計ってくれたまえ』
そう言うとユウイチは間髪入れずに『三マス目をチェックだ』と言った。それを受けてパペットマスターが『狐は近くにいます』と返す。ぎくりとはしたが、ここまでは読みどおりだ。
そしてユウイチは黙り込んだ。二マス目から四マス目のどこに俺たちがいるのか考えているのだろう。自然と俺たちの間にも重い空気が流れ始めた。
俺は無言でいることに耐えきれなくなり、スマホを取り出してゲーム中継を見る。こめかみに指を当てて考え続けるユウイチの姿。どうやら俺たちの側からは、ユウイチの映像が見られるらしい。どうせならユウイチに皮肉のひとつでも言ってやろうかと思ったが、なにか話せば致命的な失言をしてしまいそうで言葉を呑み込んだ。気がつけば三〇秒が過ぎていた。
『―四マス目をハント』
こめかみから指を離さずにユウイチが言った。ひと息おいて“Failure”の文字が中継画面に表示される。“Failure”とは失敗のこと。つまりユウイチが失敗したということだ。そしてそれは俺たちが今回は狩られなかったということでもある。
「っしゃあああっ!」