9-4.『正解だ』
『正解だ。もっとも問題を解いたのは、トシのようだがね』
「うるせえ。ルール違反じゃねえんだからいいだろ。それより次の問題をよこせ」
苦笑いを頬に張りつけたユウイチが消えると、ゲーム画面は再び俺たちを映し出した。
三人のスマホが一斉に震える。
問二
一〇枚のカードを重ねた山が一〇束ある。見た目ではまったく区別ができないが、そのうちのひと束はすべて偽造カードで、ほかの束はすべて本物のカードだ。本物のカードの重さは一枚五グラム、偽造カードの重さは一枚六グラムということもわかっている。ここに何枚のカードの重さでも正確に測ることができる計測器があった場合、偽造カードを見つけるには最低何回の計測が必要か?
「意味わかんねえ」
早々に脱落を宣言したヒロムを横に置いて、俺はペンを回し始める。
本物のカードひと束の重さは、五グラム×一〇枚で五〇グラム。偽造カードひと束は、六グラム×一〇枚だから六〇グラム。カード一〇束の重さは、五〇グラム×九束+六〇グラムで、五一〇グラム。
そこまで考えて方針転換。この計算から答えにたどり着く気がしない。
ここは全体から考えるんじゃなくて、束ごとに考えてみるか。
たとえば、一〇束をふたつに分けて、カードを五枚ずつ計測すれば、どちらかの計測が一グラムだけ重くなる。重かった五枚を二枚、二枚、一枚と分けて、それから――
「なかなかの引っかけなのだよ」
視界の片隅に、眼鏡のフレームを人さし指で軽く叩きながら難しい顔をするトシが見えた。
「だからといって、引っかかってやるつもりもないのだがね」
トシがすっと右手を挙げた。二番目の問題を読み終えてから一分もかかっていない。
「答えは一回なのだ」
俺はほうけた顔で、トシを見る。いったい、どんな計算をしたんだ?
「説明は長くなるので省略するのだ。もっとも、それほど難しい問題ではないがね」
開きっぱなしになっていたノートPCを閉じながら、トシはヒロムに目を向ける。
「わかっているとは思うが、今度もおまえが答えるのだよ」
「いや。今回は俺じゃない方がいい」
ノートPCを入れるカバンのファスナーを開ける手を止め、トシは首をかしげる。
「ここで俺が答えてクリアしちまったら、この先の問題でなんかあったときにおまえらが退場することになる。それはいい作戦とは言えねえ」
トシは眼鏡を外すと、ポケットから取り出した布でレンズを拭いた。
「それに、三人寄れば仏の知恵、とか言うじゃねえか」
「仏ではない。文殊なのだ。アホウ」
トシは口の端で笑うとカバンを肩に引っかけてから、俺の方を見た。
「では、今回はイチが答えるといいのだ」
「わかった。そうするよ」
俺はスマホに向かって答えを告げ、ユウイチとさっきと同じようなやり取りをした。
話が終わると、スマホが震え、パペットマスターから南西の踊り場に向かうよう指示される。
俺たちは全力で南西の踊り場へと走り出した。
廊下に響くスマホのアラーム音と振動とで、俺は我に返る。三問目の問題を受け取ってから、いつのまにか四分が過ぎていた。顔を上げて隣にいるトシやヒロムを見たけれど、手は挙がっていない。
「なにか、ひらめいた?」
「……さっぱり、なのだよ」
トシが首を振った。ヒロムは視線を送られる前から、両手で小さなバツを作っている。