9-2.『ゲームを作る者の矜持として、そんな盛り上がらない展開はありえないがね』
『ゲームを作る者の矜持として、そんな盛り上がらない展開はありえないがね』
そんなことはわかってる。でも公平でないと言われたら、おまえのプライドが許さないだろ。
ざらついた静寂が続く。モニタの中でユウイチが神経質そうに爪を嚙んだ。
『いいだろう。好きなだけ作戦会議をしたまえ』
ユウイチは横に置いてあったマイクになにかをつぶやいた。ゲーム画面にパペットマスターから観客への通知として、俺たちが作戦会議の時間を得たことが表示される。
「本当は五分もいらないんだけどな」
俺はトシとヒロムに声をかけながら笑った。ふたりが近づいてきたので自然に円陣を組む。
「ユウイチとの話は聞いていたよな? むこうも一方的に勝つのはNGだってさ」
「いたぶっては逃がしてまた捕まえてか。ほんとムカつくゲームだぜ」とヒロムが吐き捨てた。
「だからこそ自分たちにも勝つチャンスがあるのだがね」
トシは俺とヒロムの顔を交互に見ると口元をゆがめた。
「三問目までは答えがわかった人が答えるのではなく、全員が一問ずつ答えるのだよ。そして四問目からはこのクイズを苦手とする者から答えさせればいいのだ」
苦手な者から先に。その言葉をトシは大きな息と一緒に吐き出した。
「ちなみにこの手のクイズで出る問題は、ほとんどが学力的優位性に依存したもので、アイドルの新しいアルバム名や偉人の功績を答えるような記憶や知見に依存したものではないのだ」
テレビ番組で見るようなクイズとは違う、ということだろう。俺にも思い当たるところはある。
「もちろん腕力や統率力といったパラメーターは、まったく意味がないのだよ」
トシをちらっと見たヒロムが、なんだよ。そりゃ俺のことか? と皮肉を言った。でも、トシはいつものようにヒロムをあおらない。
「不満に思うかもしれないが事実なのだ。なにより苦手な者から抜けるのは一番合理的なのだよ」
軽く舌打ちをしたけれどヒロムは、それ以上つっこまなかった。
全員でこの階を抜けるための最善策。ひとりが抜け出すのではなく、ぎりぎりまでチームで考えて答えを出す。トシは俺が話しておきたかったことをすべて話してくれた。
「始めよう」
両手でふたりの肩を軽く叩く。円陣を解いて顔を上げ、パペットマスターを呼び出した。
「さっぱり、わかんねえ!」
問題が出される北西の踊り場へ最初に着いたヒロムが吠えたのは、第二ゲームが始まってから一二秒が経った頃だった。ヒロムはゲーム開始と同時にもの凄い勢いで走り出すと、ひとり先に一〇〇メートル先にある北西の踊り場で問題を受け取ったのだ。
俺は走りながら、後ろにいるトシをちらっと見る。走ってはいけませんと指導され続けた学校の廊下を全力で走るのは、あまりに現実味のない不思議な感覚だった。窓の外はとてもリアルなのに。
ヒロムから二秒遅れで北西の踊り場に飛び込むと、息を整えながらスマホを取り出す。
踊り場ではスマホを片手にヒロムが天を仰いでいた。
あれは本当にわからないんだろうな。考えているうちにトシが踊り場にたどり着く。
「どんなに足が速くても―問題を解く頭がなければ無意味なのだよ」
トシは手をひざに置いて、肩で刻むように息をする。
俺とトシのスマホが同時に震えた。急いで配信された問題を確認する。
問一
百人の生徒が離れ小島に取り残された。陸地につながっているのは、一台の小さなゴンドラだ。ゴンドラには、もっとも小柄な生徒ふたりか、普通の生徒ひとりが乗ることができる。小島から生徒全員が脱出するまでに、このゴンドラは何回往復するだろうか?