5-1.夏休みが始まって四日目の水曜日の昼、俺が出かける準備をしているとスマホが震えた。
夏休みが始まって四日目の水曜日の昼、俺が出かける準備をしているとスマホが震えた。
『イチくんですか。ジュンペーです。大変なことが起きたのです』
『なんだよ、ジュンペー。俺は、これから図書館にでも……』
『URLを送りましたです。このネットニュースを見てほしいのです』
あわてふためきながら送られてくるジュンペーのメッセージに押されて、俺はリンクを開いた。
最初に目に飛び込んできたのは、青いビニールシートに覆われた高層マンションの一階を空から撮影した写真。記事の見出しは「今日未明、東京・世田谷区のマンションで人が倒れていると通報」となっている。見出しの下に「重体:東京都世田谷区・対馬祐士さん(15)」と書かれていた。
自動的に切り替わった画像が、マンションの床に残された黒い染みを映し出した。ジュンペーから次々に届くメッセージの通知音がひどく遠いところからのものに感じた。
『ユウシくんには、さっき連絡をしたのですが、まだ既読にならないのです』
『落ち着け、ジュンペー。倒れていたのが俺たちの知ってるユウシだとは、まだ限っていないだろ』
そう入力した文字が、同姓同名どころか、漢字まで同じで、そのうえ、年齢まで同じ人物がいれば、というかなり楽観的な気休めにすぎないことは、よくわかっていた。
『事故のことをトシやヒロムには伝えたのか?』
『まだなのです』
『じゃあ、ジュンペーはトシに連絡をしてくれ。俺はヒロムに連絡をしてから現地に向かってみる』
会話を終えると、すぐにヒロムにメッセージを送った。台所にいた母親に、ちょっと出てくると言って家を出た。自転車にまたがり、世田谷方向に向けて走り出す。日射しが目に痛かった。
事故のあったマンションは、八幡山の駅から病院沿いに南に進み、途中から路地をジグザグに進んだ先にあった。マンションの具体的な場所は、ジュンペーから連絡を受けたトシが、ネットニュースで流れていた住所とグーグルマップをつき合わせて調べてくれた。おかげで俺は、嫌な予感を思い浮かべることもなく、ひたすらに自転車をこぐことができた。流れ落ちる汗が頬を伝う。
マンション横の路地に自転車を止めると、頭の中に焼き付いたニュース画像を頼りに現場を探した。
警察の検証は終わったのか、現場を覆っていたブルーシートは撤去され、立ち入り禁止を示す黄色いテープが午後の日射しを反射していた。あれほどいた人垣はすっかりいなくなっていて、現場の脇にぽつんとジュンペーが立っていた。俺はジュンペーの横に立ち、地面に残った染みを見る。
「先に着いたのなら、教えてくれればいいのに」
「すみませんです。ここに来たら、なんかいろいろな考えが浮かんでしまったのです」
「……わかるよ。でも今は、報道されていない情報を集めなくちゃ」
泣き出しそうなジュンペーの横顔を見て、俺は唇を強くかみしめる。トシは「事件性のない事故は、発生したときにニュースになっても、そのあとはニュースにならない」と言っていた。そのトシとヒロムは、今頃、学園に行っているはずだ。とにかく情報を集めないと。