8-4.『これより退場処置を行います』
『これよりジュンペーさんの退場処置を行います。チーム〈キセキの世代〉のみなさんは、その場から動かずにお待ちください。不穏な動きがあった場合は然るべき対応を取らせていただきます』
パペットマスターの声が校内スピーカーを通して廊下に響いた。その声に応えるかのように南西の踊り場から目出し帽を被った三名の働き蜂が現れ、ジュンペーを取り囲む。
「……手ェ出すんじゃねえよ!」
はじかれたようにヒロムが走り出す。
「来ては、来てはダメなのです! 僕は大丈夫なのです!」
「なに言ってんだ、ジュンペー」
ジュンペーは、ヒロムをその場に押しとどめるため、さらに叫び続ける。
「みんなの家族が人質になっているのです! そのためにも今は先に進んでほしいのですっ!」
ヒロムの足が止まった。床に座り込んだままのジュンペーの肩が大きく上下する。
「僕たちをこんなゲームに巻き込んだのは誰なのか? なんのためにこんなゲームが行われているのか? とにかくわからないことだらけなのです。だからヒロムくん。どうせなら一番奥にいるその人を引きずり出して……一発喰らわせてやってほしいのです」
ジュンペーは俺なんかよりもはるかに覚悟を決めていた。
俺は唇を強くかみしめる。
トシが無言のまま目を伏せ、ヒロムの握りしめた拳がぶるぶると震えた。
もう言葉はなかった。
『無駄話は終わりましたか?』
沈黙を保っていたパペットマスターが言葉を投げつけてきた。ひとりの働き蜂がジュンペーの前に立って両手にスタンガンを構える。ジュンペーがスピーカーをにらんだ。
「僕たちは勝つのです! 勝ってあなたたちのことをみんなっ……」
ジュンペーの言葉がバチバチッという鈍い火花とともに途切れる。
廊下に肉の焦げる匂いが漂う中、ジュンペーはゆっくりと体を左に傾け、ドサリと崩れ落ちた。デイパックの中身が廊下に散らばる。見開かれた目は、顔のすぐ下にある廊下を見つめていた。
自分の口がぽかんと開いているのがわかる。
無造作に投げ出されたジュンペーの手足がびくびくと震え始めた。ジュンペーを見下ろしていた働き蜂は「しかたねえなあ」といったポーズを取ると、電極をジュンペーの額に押しつけてトリガーを押す。ジュンペーの頭が大きくびくんと跳ねた。
もうジュンペーは震えてもいなかった。ただの動かない固まりとして、そこにあった。
「クソ野郎があああああああああっ!」
足を止めたままヒロムが泣き出しそうな声で叫んだ。その声を聞いて、ショックで麻痺していた自分の感情が一気に吹き出し始める。体がかあっと熱くなり、爪が食い込むほど拳を握りしめた。
パペットマスターは、そんな俺たちを冷めた目で見ているんだろう。ふざけやがって。
もう感情を抑えていられない。そう思った俺の肩をトシが強くつかんだ。
「あのヒロムがこらえているのだよ。俺たちがこらえなくてどうするのだ」
肩をつかむトシの手から怒りが伝わってくる。ジュンペーの最後の言葉が頭を横切った。
――勝ち残ってゲームを作った連中に一発喰らわせてやる。
俺たちは行き場のない怒りと悲しみを無理やりに押さえつけて立ち続けた。
三人の働き蜂は感情などまるでないように手際よくジュンペーの体を救急用の担架に載せると南東の階段へと向かう。
ジュンペーの姿が見えなくなっても、なお俺はジュンペーと過ごした時間のことを思い返していた。だが、そんな時間もポケットの中で震え出したスマホによって打ち切られる。
俺たちはそれぞれ自分のスマホを取り出すと、パペットマスターの指示を見た。
『みなさま、お待たせしました。第二ゲームを開始します』