5-5.「おまえたちの話は聞いてやる」
「おまえたちの話は聞いてやる。だが、ここじゃない。場所を変えるぞ」
「……わかりました」
ゆるめられた先生の右手の下で、俺は小さく返事をした。ほかの三人にも意図は伝わったらしい。
「ほら、ちゃんとごあいさつをしていけ」
先生は、俺から手を離すと、ガラスの向こうにいる女性に一礼をした。俺たちも、女性とユウシに向かっておじぎをする。小さく固まっていた女性が、ますます小さくなって頭を下げた。
病院の屋上に出ると、夏の刺すような日射しが目に飛びこんできた。一五分もいたら熱中症になりそうな場所に人の姿はない。シイナ先生は、屋上の片隅へ歩くと、フェンスを背にこちらを向いた。
「それで、ユウシの事故とアルミに……どんな関係があるっていうんだ」
俺たちは意を決して、先生にアルミを始めてから、これまでに起きたことをほぼすべて話した。
赤いビンから始まった高難易度ミッションのこと、アルミリークスのこと、裏ミッションのこと、ユウシが裏ミッションについて調べようとしていたこと。
ただ、ひとつ。ユウシが自分の兄貴を調べようとしていたことだけは言わないでおいた。さっき見たユウシのお母さんを、これ以上、不安な気持ちにさせたくなかったから。
シイナ先生は、時々、質問を挟んだけれど、基本は黙って俺たちの話を聞いていた。俺たちは四人でかわるがわるに説明をしたものの、話が終わったときには全員が汗まみれだった。
「そういったうわさ話があるとは聞いていたが、まさか……としか言いようがないな」
先生は、両目を閉じて、腕組みをしたままの姿勢で言った。
「それに、おまえたちの話を第三者にいきなり信じろというのも無理がある」
俺は小さくうなずいた。だからこそ、調べてみたいものがある。
「……なにか証拠になるものでもあればいいんだがな」
「ユウシの家に行って、あいつのスマホとPCを調べられれば、あいつがなにを探っていたのかがわかると思うんです。たぶんそれが、この事故の裏にいるなにかとつながるはずなんです」
深く息を吐き出してから、先生がまぶたを開く。
「教師である私が、不正アクセス禁止法に違反しようとする生徒を見過ごすことはできない。だが、念のために聞いておこう。対馬の事故の真実は、そこまでして知る必要があるものなのか?」
先生の言葉に、心が少し揺れた。たしかに今さら真実を明らかにしたところで、ユウシの意識が戻るとはかぎらない。真実を明らかにすることで、誰かが傷つくこともあるかもしれない。
天を仰いだ俺の目に、夏の入道雲が映る。俺が、ユウシの足跡を追いかけようとしているのは、こうやって夏を感じることもなくなったあいつのためなのか。それとも―。
唾を飲み込み、こちらをまっすぐ見つめる先生の目を見返して、口を開く。
「それでも俺は……真実を知りたいと思います。最後の日にあいつを止められなかった自分のために。俺たちを振り回している薄気味悪いものの正体を明らかにするためにも」
先生はやれやれと首を振る。
「ユウシの母親には、私から話をしておいてやる。おまえたちは、あくまでも部活の残務を引き継ぐために、ユウシの書いたノートを探しに行くんだ。わかったな」