11-1.二日後。
二日後。病院のベッドで目覚めた俺の前には、付添用のイスに座って居眠りをする母親がいた。
なじりながら、泣きながら話す母によれば、俺は一昨日の深夜、自宅近くの路上で昏倒していたところを通りすがりの会社員によって発見されて、この病院に搬送されてきたらしい。
俺のスマホは落下の衝撃で壊れてしまっていたと母は言った。
意識を失って倒れたときに頭を強く打たなかったことが幸いしたと医者は言った。
もちろん俺は、自分になにが起きたのかを知っている。
でも、俺にずっとつき添って、少しやつれてしまった母親を見たら、真実は口にできなかった。
それに新聞やテレビのニュースのどこにも、あの学園でのできごとは載っていなかった。それはつまり、ジュンペーもヒロムもトシもユウジも無事だということを間接的に示していた。
だから、あの日のできごとは、俺たちの中で押し殺せばいいと思っていた。
そして、ネットから隔離されたままの一週間が過ぎる。
ようやく退院を許された俺は、新しいスマホからみんなにメッセージを送った。
内容は「大丈夫だったか?」みたいな気楽なやつ。あんなゲームがあったあとだから、正直、どんなメッセージを送るかは悩みまくったけれど、すぐに既読がついて安心した。
でも、それは歯車が狂ってしまったことを知る、最初の一歩だった。
三通目のメッセージでジュンペーに受信拒否されたことをきっかけに、俺はたちまち、チームの全員から受信拒否をされてしまう。
スマホでの連絡手段を失った俺にできることは囲町学園に行ってみることだけだった。
夏休みも後半に入った学園では、いくつかの部が秋の大会や文化祭に向けて活動を始めている。生徒たちの声を聞きながら四階の部室へと向かうと、あの夜のできごとがウソみたいに思えた。
「誰だい、きみは?」
ツシマユウイチと名乗ったユウジが冷ややかな目を俺に向ける。
部室に集まっていたジュンペーもトシもヒロムも、あの夜の姿のまま、俺に眉をひそめる。
悪い冗談だと思った。
でも、それが現実だった。
俺が名前を告げるほど、俺がみんなで過ごした時間のことを話すほど、四人は俺から離れていく。
その姿は、俺やアルミのことを意図的に忘れたいというよりも、俺やアルミのことは最初からまったく記憶にないという感じだった。
「きみ、この前からメッセージを送ってくる人だよね。どこで僕たちのアカウントを知ったのかはしらないけれど迷惑しているんだ。もう、やめてくれないかな?」
ユウジは、自分が兄にしたことさえも忘れて、ツシマユウイチとして、そう言った。
――リセット。
あの日のパペットマスターの言葉が、俺の記憶をかすめる。
自分以外の全員がアルミに関する記憶をなくした世界。
この現実にアルミが存在しないことになっている世界。
ゲームに勝利した俺だけが記憶を残したまま、今ここにいる。
そして――
俺はまたひとりになった。