7-3.「大丈夫だ。そのときは、おまえとイチが用意してくれた道具でカギを強引にこじ開ける」
「大丈夫だ。そのときは、おまえとイチが用意してくれた道具でカギを強引にこじ開ける」
珍しくヒロムがトシと肩を並べて、ドヤ顔を見せた。まあ、このふたりならそうするだろう。
ようするに穏便に進むか、極めて強引に進むかの二択だってことだ。
『東側一階、購買横のはき出し窓。クレセント錠の上にカバーがついてやがる』
ヒロムからそんなメッセージが届いたのは、校舎西側の大半をしめる職員室の窓をひとつひとつ確認しながら進んでいるときだった。防犯カメラを意識した中腰での移動は想像よりもつらい。
「前に調べたときにはカバーなんてなかったのだよ。まったく無駄なところに金をかける」
いやいや。こうして侵入犯が苦戦してるんだ、無駄じゃないだろ。そうは思ったものの口に出せば、トシからいかにこの程度のセキュリティがもろいのか、延々と聞かされそうだったので、小さめのため息とともにはき出しておく。
「まあ、いいだろう。いつの世もセキュリティというのは破られるためにあるのだ!」
「でもさ、トシ。あっちの防犯が前よりも厳重なら、職員室のあるこっち側はもっと厳重なんじゃ」
「普通に考えれば、そうなのだがな。セキュリティの穴というものは、総じて誰もが厳重だと考えているポイントのすぐ横にあるのだよ」
トシは息を止めると、白い手袋をはめた手でそっと窓枠に触れる。
「むぅ、この窓もハズレのようだ。ところでイチ。おまえは、いつになったら調査を手伝うのだ?」
「あ、すっかり忘れてた」トシがあまりに慎重なので、手を出しそびれていたのだ。
「ちなみに、そのむき出しの手で窓に触れれば指紋が残るがな」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。おまえみたいに準備してきたわけじゃないぜ」
「目視だな。目で開きそうな窓を探すのだ」「そんなセンス、持ってねえよ」「安心しろ。過度な期待はしてない」「そういう問題じゃねえよ」
「とにかく、あっちの角から自分の方に向かって目視で調べてくるのだ。期待してるのだよ」おい、言ってることが矛盾してるぞ!「わかったら、さっと動くのだ」
そう言うとトシは、五〇メートルほど先に見える校舎の角を指さした。ここでトシと議論をしていても始まらないし、なにもしないよりも少しはマシだろう。
「はい、はい」
息を吸って次の窓に取りかかるトシを横目に俺が中腰で移動を始めると、スマホが軽く振動した。
『開いている窓を見つけたのです。場所は応接室』
ジュンペーからのメッセージだった。これで入り口が見つかったということなのだろうが、それにしても応接室といえば、俺が向かっていた角を曲がったすぐ先だ。ジュンペーとヒロムの調査スピードが速いのか、トシが極端に慎重すぎたのか。
『でかした、ジュンペー! トシたちに昼メシ、おごってもらえるぞ!』続けてヒロムのメッセージ。
「……ぐがあああ」背後からトシが声を押し殺しながらうめく声が聞こえた。
『回転寿司にするか焼き肉にするか。どっちにしても、トシとイチにはごちそうさまだ!』と送ってきたヒロムは、続けて自分が昼に食べたいものリストを送り始める。な、なんだこの流れ。
「イチがもっと活躍してくれれば……まったく計算外だったのだ」
呪詛にも似たトシの声が背中に投げかけられる。
「そんなことより、どうして俺がヒロムたちと昼メシを賭けて勝負をしていることになってるんだ?」
「そのほうが盛り上がるからに決まっているだろう。まったく」
「本人の同意もなしにか?」「常在戦場という言葉を知らんのか」「それと同意は別の話だろうが」