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札幌冬季五輪招致の忘れもの〜オリンピックの心〜

札幌冬季五輪開催の夢が潰えると、これまで札幌招致に批判的であったメディアや識者がその実現を妨げた罪を日本オリンピック委員会(JOC)に被せ始めた。
 
まさに山本七平あるいはイザヤ・ベンダサンが見事に解明してみせた日本教が現象している。札幌招致実現の可能性が高いと五輪否定論でバランスを取り、招致実現可能性が低くなると五輪擁護に傾く。まさに実体語と空体語が天秤にかけられているだけである。(日本教の社会学、山本七平、小室直樹、1981年講談社)
 
これではいつまで経ってもその真相、五輪原理が解明されない状況が続き、であるからこそ誰もが五輪にダメ出しができる状況も続く。メディアにも指揮者にも反省を求める所以である。
 
12月19日、JOCと札幌市、北海道と関連団体が札幌市内のホテルでの協議の結果、招致活動の「停止」を決定。オンラインで参加したJOC尾県貢専務理事は「五輪の信頼を取り戻すためにも招致活動を停止することがよいと考えた」と語り、秋元克広市長も「招致活動は停止せざるを得ない」と述べた。
 
全くの五輪音痴と言わざるを得ない。
 
尾県が「五輪の信頼を取り戻すために招致活動を停止する」との発言には絶句である。五輪の信頼を喪失させたものが何か?それが東京五輪2020の汚職問題であるなら、まさにその問題にJOC自身が決着をつけなければならないが、そうであるならば、そのためにも札幌の招致活動がオリンピズムに基づいたものであることを示すことが重要であり、それは招致活動を継続すること以外にないだろう。東京五輪2020がコロナ禍で開催されたことの意義は、汚職問題を超えて世界史的に存在しているのである。ならば汚職に対する決着をつけ、堂々とオリンピック運動そのものになりうる招致活動を示すしかないだろう。

2019年に国際オリンピック委員会(IOC)が五輪開催地を決定する方法を招致合戦から「対話」に変換したその根本的精神を理解すれば、招致活動を継続するという意思を「対話」によって示し続けなければならない。

IOCが札幌有利の状況から2030年フランス、2034年ソルトレークシティに絞ってみせたのは、札幌がIOCとの「対話」を一方的に止めたと理解したからだ。今年2月、山下泰裕JOC会長がIOCを極秘訪問し、バッハIOC会長に2030年の札幌五輪開催が難しいことを伝えていた。そこから「対話」を繋げるためには、日本における五輪の信頼をいかに回復するかの話し合いを継続することであった。しかし、日本はこの問題を今の情勢で札幌市民や日本国民の理解が得られるかどうかの判断をする国内問題と捉え、10月中旬に行われる第141次IOC総会に合わせるように、わざわざ10月初旬にJOCと札幌市は「2030年開催を断念する」と発表したのだった。

IOCにしてみれば、コロナ禍の東京2020(夏季大会)を実現するためにあらゆる犠牲を払った日本が、それを引き継ぐことなく札幌(冬季大会)を諦めるということは想定外だった。が、それ以上にこの発表は唐突でショッキングであった。
 
今回の札幌五輪招致活動を「停止」したのは、まだ諦めていない余韻を残したものだそうだが、IOCの辞書では「半永久的諦念」と同義語である。それは日本のオリンピック運動の死滅と同じになることであり、さらに問題なのはそのことにオリンピック運動の主体となるべきJOCが気付いていないことである。
 
JOC尾縣専務理事が「現状の支持率を見ても国民の賛同をもらっているとは思っておらず、オリンピックムーブメントの推進なしには次の段階に進めない。基礎を作りながら希望が出てきたときにJOCとして招致を先導していきたい」とは、一体いつオリンピック運動を始めるつもりのだ?と開いた口が塞がらない。これがオリンピック運動の先陣を担うべき人の言葉とは。
 
オリンピック運動を推進するための日々があるのであれば、その運動の彼方に札幌招致活動もあるべきであり、基礎がないというのなら、それができていないJOC幹部は責任を問われるべきである。招致活動を停止する理由をオリンピック運動が浸透してないということにするならば、それは「うちの会社の企業理念が皆様に浸透していないので、それが浸透するまで営業活動は致しません」と言っているのと同じことである。
 
東京五輪2020の汚職問題にしても理事の当事者意識の欠如がその根本にあるが、JOCの理事においても同様であるならば日本のオリンピック運動は永久に始まらない。事務局が機能して、それなりに職員が日々の業務をこなし、選手がアジア大会や五輪で活躍すれば、それが一つのオリンピック運動となるだろうが、その根本を支えるJOCの魂が皆無ではどうしようもない。
 
オリンピックを信頼していないのは札幌市民でも国民でもなく、尾縣自身と言わざるを得ない。もし、オリンピックの心があれば、傷ついた信頼を回復するために何を捨ててもそのことに邁進するはずだろう。「希望が出てくる」のを待つのではなく、「希望」を持って日本国民にオリンピックの価値を伝えるだろう。
 
日本は嘉納治五郎が明治44年大日本体育協会(JOC)を設立して以来、スポーツ精神を重んじる国として世界にその歴史を刻んできた。脈々と受け継がれてきたJOCの国際スポーツ界における信頼は少なくとも東京五輪2020の開催まで繋がっていた。
 
しかしその信頼は、今や風前の灯である。
 
オリンピックの心なきJOC理事は総辞職するしかない。

(敬称略)

2023年12月25日

明日香 羊
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編集好奇
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インボイス制度で弱き者から搾り取り、こっちで給付金、こっちで増税。
結局、パイは変わらず。朝三暮四。政府は国民を猿扱いか。
政府もJOCも志あるものがいないのだ。

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