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うつくしい世界
わたしは若い頃から引っ込み思案で、一人でレストランに入ることさえできなくて、元夫には箱入りオバさんと散々からかわれたものだ。
ひとり娘の結婚を控えたある日、一人旅でもしてみようかしらと何気なく娘に漏らした。それが発端となり、あれよあれよといううちに旅先を東南アジアの島に決められ、わたしは人生で初めてパスポートを手にしたのだった。
家が恋しくて、心が挫けそうな毎日。今日は勇気を奮い立たせて屋台に並んだのに、列に横入りをされた。おまけにスコールに遭い、ホテルに戻った頃には全身びしょ濡れだった。急いでシャワーを浴び、バルコニーの椅子に座って、一人旅に出た後悔を胸に灰色の空を睨んでいたら、雲の切れ間から光が差してきた。強い風が黒雲を吹き払い、海面がきらきらと輝き始める。金色のベールをまとった夕陽が、空を赤く焼いていく。雲が薄紫色に染まる。目の前で刻々と変化する景色に、わたしは子供のように夢中になった。