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新解釈・ヘミングウェイの短編小説『 The Sea Change 』はSF小説だった

ヘミングウェイの短編小説『 The Sea Change 』をSF小説と読みといた。 
SF小説のなかのディストピア小説に分類される。 
ヘミングウェイの短編小説のなかで、とくに読みとくのがむずかしいと言われている『The Sea Change 』 
この小説についてヘミングウェイはこのように語っている。 
「見えはしない。けれども、そこにすべてある」と。 
 
ハードボイルド文体の祖にして、ノーベル文学賞を獲得したヘミングウェイの魅力を感じてもらえれば幸いです。 
 
小説の舞台はフランスにあるカフェ。 
カフェにはバーのようなカウンターがあり、バーテンダーがひとり。 
そして、カフェ内のテーブルにすわる若い男女のカップル。 
カフェの広さやテーブルや椅子の数などの細かい情報はいっさいない。 
必要な情報だけ、いや、必要な情報すらも削ぎおとすヘミングウェイの文体。 
書かれていない情報に読者はおもいをはせるしかない。 
神は細部にやどるのではないか、不親切ではないかと思うひともいるだろう。 
一方でヘミングウェイにはまる読者は、その書かれていない情報にひきつけられる。 
ヘミングウェイの文体をシンプル・アンド・ディープと開高健は評した。 
シンプルな文章を読んだだけでは、ヘミングウェイの深い魅力にはひたれない。 
つまるところ、ヘミングウェイを読む読者にもディープな読書力をもとめられる。 
 
物語の冒頭は、若い男女のいさかいからはじまる。 
なにについてケンカしているのか、言いあらそっているのか、それすらも不明ないさかいがつづく。 
女が男から離れていこうとし、男がそれを止めようとしている。 
そのように感じとれる。 
 
季節は夏の終わり。 
カップルはこんがりと日光に焼かれ黄金色の肌だと書かれている。 
フランスには似つかわしくない、とも書かれている。 
黄金色の肌をしているのは、夏のあいだバカンスにいき肌を焼いてきたと考えるのが自然だろう。 
 
つぎに衝撃的なセリフがつづく。 
「彼女を殺す」と男が言う。 
彼女とは誰なのか、てががりはない。 
女は男に彼女を殺さないでとたのむ。「あなたはそんな人ではない」と手をかさねあわせようとする。 
女は男のことを愛していると伝える。 
女は男を愛している、けれども、男から離れていこうとしているのがわかる。 
それは、なぜか、この段階ではわからない。 
 
男がポツリとつぶやく。 
「男だったらな」 
女は「そんなことを言わないで、男ではないと知っているはずよ」と答える。 
このあと、男と女は、悪徳とは、邪悪とは、について禅問答のようなチンプンカンプンなうけこたえをつづける。 
 
視点がかわりバーテンダーの様子が書かれる。 
バーテンダーは、テーブルのカップルはお似合いだと思いながらも、お似合いのカップルは長続きしないと考えるが、カップルのことは頭のハシっこに押しやり、おもに馬のことについて考えていると書かれている。 
 
いきなり、馬という単語が登場する。 
あと30分ほどすれば、馬が勝ったか、どうかわかるとバーテンダーは考えている。 

この段階で女は男を愛しているのに、なぜ男から離れなければいけないのか、それがわかる。 
女は、馬に捧げられるのある。 
女を馬に捧げるように画策したのが、男が殺してやると言った女性である。 
男であれば、という言葉ともつながる。つまり、愛しの女を馬に捧げなければいけない、と男は苦しんでいる様子が見てとれる。 
なぜ、カップルの女は、馬に身を捧げようとしているのか。 
それは、カップルがまずしいからだ。 
カップルは、肉体労働によって日銭をかせぎ、日光労働によって肌を焼いていた。 
なぜ、カップルは肉体労働に従事していたのか。 

 フランスが馬に支配されているからである。 宇宙人の馬なのか、馬が進化したものなのか、それはわからない。
馬に身を捧げた女性は金を支給される。そして、一定期間たてば開放されると約束されている。
しかし、馬の元から帰還した女性はいままで一人もいない。
 
さらに、新事実があかされる。
このカフェは、馬の支配に抵抗するレジスタンスがひそかに集まる秘密基地なのだ。 
女たちは貧困から支配者である馬に身を捧げる。馬にたいする抵抗活動に参加し若い男たちは死んでいく。 
だから、お似合いのカップルは長続きしないのである。 
馬が勝ったのか、どうかをバーテンダーが気にしていたのは、馬にたいするレジスタンスの襲撃が成功したか否か、それを考えていたのだ。 
 
バーテンダーが歴戦のレジスタンスだとわかる文章がある。 
カフェにカップルとはちがう、あたらしい二人の客がはいってくる。そして、バーテンダーが太っていると指摘する。 
馬に支配されているフランスだというのに、バーテンダーは客に指摘されるほど太っているのである。 
なぜ、太っているのか。 
それは、馬を殺して食べているからである。 
 
若いカップルのいさかいはつづく。 
男はついに女が身を捧げることを認める。そして、襲撃の結果をきくことなく女は店をでていく。 
女が店をでていくのを確認したのち、男はカウンターに座る。 
そして、女が道を横断している姿を窓ごしに眺める。 
 
男は「いままでの俺とはかわったんだ、別人になったんだ」とバーテンダーに伝える。 
この発言のまえに、カウンターに座っていた二人の客が男のために席をゆずる。 
それはなぜか、何かを決意した男の鬼気せまる強く濃いにじみでるオーラに圧倒されたのである。 
二人の客は敬意から男性に席をゆずった。 
 
男はレジスタンスに参加し、危険な抵抗活動に従事すると決意したのだ。 
「あなたはとてもよく見えますよ」とバーテンダーは男につたえる。 
そして「とてもよい夏を経験したのでしょう」と男につたえ小説はここで終わる。 
 
とてもよい夏を経験とは、女とたのしい思い出を経験し、そのたのしい思い出を共有した女をうばわれ、これから女を奪還、いやフランスを奪還するための決意をしっかりとかためた戦士をはぐくんだ夏をよいとバーテンダーは評したのである。 
 
この短編小説のタイトルは『 The Sea Change 』 
海が変化する。 
海が変化するといえば、海をわったモーセがもっとも有名だろう。 
つまり、すばらしい夏をすごし、戦士とかした男性が馬から人類をすくう未来を予言しているのである。 
馬に支配されているディストピアのなかに、パンドラの箱に残された希望をヘミングウェイは残していた。 
人類よ、困難にぶちあたっても希望はある、というヘミングウェイのメッセージがこめられている。 

ヘミングウェイの有名な『 老人と海 』でも「人間は負けるようにできていない」と書かれている。

どんな不遇な状況におかれようと人間には希望があり負けるようにはできていない、というヘミングウェイのメッセージよ伝われ。

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