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【 雑文 】「が」について、文と文をつなぐ

「が」で、文と文をつないではいけない。文章を書くうえでの定説になっています。
わたしもひと様に納品するときの文章は、「が」をつかい文と文をつなぎません。

とはいうものの文章を書いていると、「が」でつないだほうがよい、「が」でつなぐべきだろうと思う文もあるように感じるのです。
なんとなく「が」がすっぽりとハマりこむような文章があるんですよね。
それでも文章のルールをまもり「が」をノドにささった魚の骨のようにとりのぞき、接続詞でつなぎます。
そうすると、つぎに問題になるのが、語尾問題です。
納品する文章は、ですます調で書いてくださいと依頼されます。
「が」を書きたくなるたびに、句点・〇をうつと、語尾がきれいそろってしまうです。
ですので、語尾をかえる必要がでてきます。
語尾を調整しだすと、片づけをしない子供部屋のように文章がゴチャゴチャしてくるのです。
これなら「が」で文と文をつないだほうが良かったのでは、と思うことが少なからずあります。

「が」について、ぼ~ッとかんがえていたある日です。
谷崎潤一郎の『 台所太平記 』を読んでいました。
この小説は、ですます調で書かれています。
ちなみに谷崎潤一郎の『 源氏物語 』もですます調で書かれています。
うえの文章も、余談になりますが、谷崎潤一郎の『 源氏物語 』もですます調で書かれています、としたいところです。
みなさまは、どちらの文章がお好みでしょうか。

話をもどします。
「が」について考えながら読んだからでしょうか。
めだつのです、「が」
「が」で、文と文をよくつないでいるではありませんか。
みっつの文をふたつの「が」でつないでいることもありました。

そもそも「が」で文と文をつないでは、なぜいけないのでしょうか。
よく見かける説では、「が」で文と文をつなぐと読者の負担になる、といわれています。
谷崎潤一郎の小説は、読んでいてチッとも疲れません。
むしろ、すらすらと読めます。
あのザッ文豪とよびたくなる谷崎潤一郎に、ちょっと「が」で文と文をつないではいけませんよ、といえるでしょうか。
私はいえません。

谷崎潤一郎だけが「が」をつかっているのでしょうか。

私のもっとも尊敬し好きな小説家である開高健の『 魚の水はおいしい 』をひらいてみました。

四カ月ぶりに東京へ帰ってきたが、汚染、犯罪、自殺、地震、それにひどい物価高である。

魚の水はおいしい

ひらいてすぐに登場します「が」
このエッセイが書かれたのは、1973年です。
いまの日本とまったく、ちっとも、かわっていないと思いました。

男性作家ばかりでなく、読みやすく、テンポがよく雅な文章を書く、いまなお人気作家である向田邦子の文章を見てみましょう。

冬になるとよく体験することですが、「あ、いま、風邪ひいたな」と思うことがあります。

若々しい女について

だ、である調、ですます調のちがいはあります。
どちらの文章も「が」で文と文をつないでいても問題ないように私は感じました。
どうでしょうか、ここまで読まれたみなさまは、どのように思いましたか。

話かわって、谷崎潤一郎は『 文章讀本 』を書いています。
いまや、コインを投げれば文章の書きかたについての本がつみあげられ、平積みになっている時代です。
谷崎潤一郎はその先駆けでした。
谷崎潤一郎の『 文章讀本 』を読みました。「が」で文と文をつなぐとは書かれていません。

では、いつから「が」が、ヘビやねずみ、クモのように嫌われるようになったのか。
清水幾太郎の『 論文の書き方 』からだといわれています。
「が」で文と文をつなぐ弊害について書かれています。
谷崎潤一郎の『 文章讀本 』の出版は1934年。
清水幾太郎の『 論文の書き方 』が出版されたのは1959年です。
20年ほどのひらきがあります。
開高健も向田邦子もおなじ時代を生き、文章を書いたひとたちです。
「が」の排斥運動は、1959年からあったのでしょうか。
論文には「が」をつかわないのが主流になった、けれども、隕石の衝突をいきのびた哺乳類のように、エッセイや小説のなかに「が」は、生きのこったのでしょうか。

谷崎潤一郎が『 文章讀本 』を書いてから90年。
いまだに、これダという文章のルールもなく、これさえ読めばとよい文章読本もなく(ひとによってはこれダという文章読本はあるでしょう)
「が」ひとつでこれだけ悩ましい日本語。

日本語の文章を書くために気をつけるべきルールが多々ありますが、じぶんの文章を書くときは、ルールをやぶり自由に書いたほうが、たのしく文章を書ける、さらに文章を書く習慣がつくと私はおもうのです。

私は自分の文章を書くときは、ルールをやぶります。
自分で文章を書くルールを破ることを選びました。
noteを書きつづけられているのは、ルールを破ると選んだからかもしれません。

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