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ジェイルか全額没収

サンフランシスコに行く時はいつも小牧(名古屋)空港からポートランド経由の便を利用していた。

それまでに何十回と渡米していたが特に問題なく入国できていた。

ある時のこと。
退団が決まっていた中日ドラゴンズのパウエル選手が同じ飛行機に乗っていたのを覚えている。ドラゴンズの選手が何人か見送りに来ていた。

その時は知人がお店をオープンしたいとのことで初期在庫の買付けを頼まれていた。100万円分ほど。

自身の買付けだけの時は生活費プラス少しの現金だけ。
あとはクレジットカード。
預かった現金はそのままドルに交換。当時のレートは80円台だっと思う。
100万円分の札束はかなり分厚い。

事前に機内で入国カードを書く。
いつもと同じ感覚でYes・Noのチェックボックスにレ点を入れる。

"1万ドル以上持っていますか"
という項目にもいつものようにNoを。

約8時間のフライトを経てポートランドに到着。
イミグレで止められたことはなかった。

初めて「あっちへ行きなさい」と指を差される。
荷物検査だ。

その時にハッと気付いた。

直ぐに束になった分厚い札束を見つけられた。

「10,000ドル以上持参してないですか?」
きっとそうだろう。
ミリオンダラーが聞き取れた。
全て100ドル札なら目に付かなかったかもしれない。
50ドルや20ドル札が混ざったミリオンダラーの厚さは10cm弱はある。


ここはアメリカ。
「持っていない」と申告しておきながら「持っている」と言ったほうがよいのかやはり「持ってない」と言ったほうがよいのか。
はたまた間違えたと言うべきか。

ただそれを説明してやり合うほどの英語力はなかった。
短い時間の中でいろいろなことを考える。

テンパって出た言葉は「No」だった。

個室に連れて行かれた。
椅子に座らされる。目の前には小さな机。

190㎝ほどある細身の黒人の若い入国審査官が僕の前へ張り付く。
扉の前にはもうひとり扉を塞ぐように立っている。
向こうを向いて警棒のようなものを持ちその手を後ろで組む。

「もう1度聞きます」

「あなたは10,000ドル以上持っていますか?」

蛇に睨まれた蛙

先程の同じ言葉より明らかに1単語1単語ゆっくり話しているのがわかった。
彼は1枚いちまい目の前で札束を数え机に並べ始めた。


ジ・エンド

その後壁に手を付けることを命じられ身体チェック。
個室の入り口にはひとりだった審査官が三人くらいに増えている。


どうしよう・・・
為す術なしであるが少しの希望を信じて考える。

変に英語を話すのはやめよう。
確かに相手の言っていることは聞き取れてはいたが「No」を3回言っただけ。最後のあがきを試みるにはこれしかない。

日本語が話せるスタッフを呼んでくれないかと日本語で話し続けた。
日本語がわからない黒人の若い入国審査官の顔は完全に怒っている。

おなかが痛くなってきた。

1時間半程経つとようやく日本人の女性スタッフが現れた。

「僕どうなるんですか?」

「法令違反なのでジェイル若しくは全額没収です」

「ジェイル?」

映画で観たあのシーンが頭をよぎる。
新入りがいたぶられるあのシーン。
頭の中はなぜかそのことだけだった。

「連邦局の判断待ちです」

20代にして人生の終わりを告げられたようだった。

数分後、女性スタッフが現れた。

「今回は申請を間違えたということで対処します」

放心状態で何がなんだかわからないままサンフランシスコに向かった。

サンフランシスコに到着後にその話を知人にすると
普通そんなことはあり得ないよ。運がいいねと言われた。

2時間あまりの出来事のショックから立ち直るのに少し時間がかかった。

後ろ向きでパンツを脱がされることはなくなったのに。


※ちなみにその知人はその数年後、頬にできたしこりを除去した痕が生々しく、「ジャパニーズヤクザ」だと疑われ入国できずに帰国させられました。
同じポートランドでの出来事。20年以上前の事ですが本当の話です。

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ひろゆき
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