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タイトル:「薪の灯りと三つの鐘」



このお話は、クリスマス前の冬のロンドン郊外が舞台です。主人公の薬剤師ベンジャミンは、商売や日々の不満から、周りの人々に心を閉ざしてしまっています。しかしある夜、彼は不思議な存在たちに出会い、自分が「昔どんな思いで薬を作っていたか」、「今、自分が心を固くすることで誰が困っているか」、「このまま行くと未来にどんな結果を招くか」を見せられます。

これらを知ったベンジャミンは、自分が周囲とどう関わるべきか、どうすれば人々にとって本当に役立つ薬剤師になれるかに気づいていきます。このお話は、クリスマスの静かな夜に、一人の頑固な男が再び心を温め直し、人間同士の思いやりが持つ力を見つめ直す物語です。




その冬、ロンドン郊外の小さな町には、年末らしい活気があった。ガス灯が石畳の通りを淡く照らし、酒場の扉からは暖かな笑い声と麦芽の香りが漏れ出す。雪はまだちらほらと舞っている程度だったが、クリスマスを前に人々は期待と安堵に包まれていた。


しかし、その中でひとり、カーヴァー老舗薬局の主・ベンジャミン・カーヴァーは不機嫌そうに店のカウンターで帳簿を睨んでいた。彼は、今年一年の業績が期待ほど伸びなかったことに苛立ち、店員や顧客に冷淡に接していた。客が求める安価な薬草や緩和剤についても「そんな安売りはしない」と突き放し、余計なサービスを求める街の人々に心を閉ざしていた。


そんなある晩、閉店間際。街角には微かな鈴の音が響く中、ベンジャミンは重い扉を閉め、錠前を下ろした。ふと視線を上げると、雪の降りしきる通りに、一人の青年が立っている。青年は真っ白なマフラーを巻き、手には小さな鐘を握っていた。  

「カーヴァーさん、今宵は子どもたちへの薬草入りホットワインを少しだけ分けていただけませんか?風邪が流行っていて、皆困っています」  

青年は懇願したが、ベンジャミンは鼻で笑う。  

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