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タイトル:「初日の出に願いをこめて」


 まだ夜明け前の薄暗い空を見上げながら、私はいつもよりも早く目を覚ました。

「……私が目覚ましより先に起きるなんて珍しいな」

 そう呟きながら布団から抜け出すと、部屋の空気が少しひんやりとして、背筋がシャキッと伸びる。今日は元日。いつもより特別な朝だ。


 自分でもびっくりするくらい、朝から心が軽やかだった。そういえば昨晩は、おせち料理の最後の仕上げをしていたっけ。伊達巻は少し焦がしちゃったけれど、黒豆や昆布巻きはなかなか上手くいったはず。見よう見まねで作ったおせちだけど、「年明けの喜び」はちゃんと味わえるんじゃないかな、なんて思っている。


 台所に行くと、母が昨夜から仕込んでいたお雑煮のいい香りが漂ってくる。おせちのパッケージに並べた料理を改めて見直すと、形が歪な伊達巻も愛おしく思えてきた。

「おはよう、母さん。お雑煮もうできそう?」

「あと少しよ。あんたがこんなに早起きだなんて、お正月くらいかもね」

 母に軽く笑われてしまった。たしかに、普段の私はギリギリまで眠りたい派だ。でも今日は新年。新しい一年が始まるというだけで、なぜか胸がわくわくするのだ。


 やがて父と妹、そして祖母も顔をそろえ、みんなで「明けましておめでとうございます」と声を合わせる。母の「じゃあ、食べましょうか」の一言で、家族全員の笑顔が食卓を囲んだ。湯気の立つお雑煮をすすりながら、朝の冷たい空気が嘘みたいに温かい気持ちで満ちていく。


「なんか、今年はいいことが起きそうな気がするね」

 私がそう言うと、父がにやりと笑い、

「それは毎年の口癖じゃないのか?」

と突っ込んでくる。たしかにその通りかもしれない。だけど、そんな軽口も家族らしくて、悪くない。


 お腹が満たされたところで、今度は初詣に出かける準備を始める。祖母が丁寧に袖を通している晴れ着を見ると、自分も何だか気が引き締まる。いつもは学校の制服かラフな服装ばかりだけれど、今日は晴れ着姿で迎える新年。まるで自分まで別人になったようで、不思議と期待感が湧いてくる。


 家を出ると、冷たい朝の空気に頬を刺される。それでも空は雲ひとつない快晴で、遠くの山の上にゆっくりと太陽がのぼるのが見えた。思わず足を止めて、初日の出をしっかりと眺める。


「……今年は、もっと自分のやりたいことに素直になろう」

 心のなかでそう誓う。ちょっと恥ずかしいから、口に出すのはやめておいたけれど。


 神社に近づくと、すでに多くの参拝客でにぎわっていた。屋台からは甘酒のいい匂いが漂ってくるし、露店で子どもたちが楽しそうにはしゃぐ声が聞こえる。賽銭箱に硬貨を投げ入れて、二礼二拍手一礼。自分なりに真剣に、だけどまっすぐな気持ちで願いごとをする。


「どうか、今年こそ小さな夢を大事に育てられますように」

 神社を出て祖母と並んで歩きながら、ちらりと祖母の横顔を見ると、穏やかな笑みがこちらを向いていた。

「きっと大丈夫よ。頑張る子には神様も優しいはずだから」

 その言葉がまるでお守りのようで、心にすっとあたたかさが広がる。


 そのまま家族と一緒に帰宅すると、ポストには年賀状が届いていた。久しぶりに見る友人や親戚の手書きメッセージに、思わず頬がゆるむ。スマホでのやり取りもいいけれど、こうして文字にして気持ちを伝えてくれるのって、なんだか嬉しい。


 何気ない会話や、些細なやり取りに宿る幸せは、きっとこういう日常の中にこそあるのだろうと思う。いつもと同じ家、同じ家族と過ごす元日。でも、そこには新しい年を迎えた私たちの“小さな希望”が詰まっている。


 ほら、部屋の窓から差し込む日の光さえ、まるで私たちを祝福してくれているみたいだ。空気は冷たくても、心は今までになく晴れやか。毎年同じように迎える年始だけれど、何度でも「初日の出に願いをこめる自分」を信じてあげたくなる。


 こうして、私の新しい一年がゆっくりと動きはじめる。たった一日めの朝だけど、この気持ちを大事に抱えながら、また新しい日々を積み重ねていこう。

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