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動きで語るか、言葉で語るか。パントマイムと演劇の違い

こんにちは、芸能事務所トゥインクルコーポレーション所属、パントマイムアーティストの織辺真智子です。

クイズ、パントマイムってなーんだ?

「壁!」「カバンが動かないやつ」
あってます。間違ってないです。ただ、もう少し色々やってます。

「ボール投げるやつ」「風船ひねるやつ」
そ、それは違います 笑 混同されがちですが、前者は「ジャグリング」後者は「バルーンアート」といいます。

「大道芸」
イコールではないです。大道芸でパントマイムを見かけることがポピュラーではありますが、大道芸が中華料理だとすると、パントマイムは麻婆豆腐とでもいいましょうか。 

「ダンス!」
わかる!ダンスって思いますよね。惜しい。

元々舞踊と一緒のところに発祥がありますし、バレエの中に「マイム」というテクニックがあったりするのですが、
パントマイムは、言葉を使わずに体や表情だけで気持ちや物語を伝える、演劇の一種です。

で、ご存知の通りセリフは言わないです。

パントマイムと演劇(セリフのある演劇)の違い

セリフのある演劇(いわゆるストレートプレイ)とパントマイムの最大の違いについてご説明します。今は、多種多様な表現の時代なのでどちらも必ずしも当てはまらないです。喋るパントマイムの人いるし・・・一言二言だけのストレートプレイもあるし・・・。
なので、こんな括りで考えるとわかりやすいよ、というふうに読んでもらえたらと思います。

まず、ひとつめは、セリフがないことによる表現方法の違いです。
パントマイムでは、言葉を一切使わず、体と表情だけで気持ちや状況を表現します。でも、物語をわからせなきゃいけないんです。なので、体の動きはセリフありの演劇よりも大きく、より誇張された身振り手振りを使います。 セリフがない分体の角度や細かい身体表現技術が、より演技のわかりやすさに直結するといえるでしょう。そして、いわゆる「壁」的なテクニカルな身体表現の技術習得が不可欠です。

一方、セリフのある演劇では、言葉が中心となり、セリフで気持ちや状況を説明します。
体の動きや表情ももちろん使いますが、パントマイムほど大げさではありません。また、表情もセリフと合わせて使うことが多いです。言葉と非言語表現のバランスが重要になります。
「パントマイムで大きく体を使えるんだから、その使い方でセリフも言っちゃえばいいんでないかい」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
それがよい場合もありますが、大体「おいおい、どうして君はそんなに大げさなんだい」っていうふうになります。ほら、味噌汁だって出汁を全く入れなかったらまずいですけど、だからって「ほんだし」を入れすぎてもまずいじゃないですか。それと一緒です。

そして、舞台設定、物語の伝え方、そして観客との関係性が大きく異なります。パントマイムは小道具をほとんど使わず、シンプルな舞台で演じられることが多いため、観客の想像力が重要な役割を果たします。物語や感情は目に見える要素だけで伝えなければならず、時に抽象的な表現になることもあります。

一方、ストレートプレイでは、セリフや詳細な舞台装置、小道具を使って物語を展開することが多いです。
もちろん、素晴らしい舞台装置や大道具で展開されるパントマイムの舞台も世の中にはあるようですが、私自身は、とってもシンプルな舞台にしか立ったことがないので、お城みたいな舞台装置とか、めっちゃ憧れがあります。いつか立ってみたいです。

また、パントマイムの観客は、演者の動きから意味を読み取る必要があるため、より積極的な参加が求められます。これに対し、ストレートプレイでは、セリフや舞台設定によって物語が明確に示されるため、観客の解釈の余地はパントマイムよりも、比較的少なくなることが多いです。

このように、パントマイムは観客の想像力と積極的な参加を促す、視覚に大いに頼りまくった、より抽象的で挑戦的な舞台芸術なのです・・・・!

パントマイムのデメリット

そう、挑戦的・・・パントマイムにはデメリットもあります。

まず、言葉を使わないという特徴から、複雑な概念や抽象的なアイデアを伝えるのが比較的難しいです。

そして、観客の想像力に大きく依存するのはとっても危険な状況を時に生みます。
演者の作ったお話が「非普遍的な状況」の場合、物語が進むにつれてほとんどのお客様が意味がわからなくなってしまう、というシュールな状態が起こりえます。普遍的なシチュエーションであっても、お客様によっては理解が難しい場合もあるでしょう。結構わかりやすいお話であっても「物語の進行につながる大事な所作をうっかり見逃した」ことによって、その先の物語がさっぱりわからなくなる場合もありえます。
私自身も「物語が途中からさっぱりわからなくなってしまい、数十分、ただ、動き回る舞台の演者を見つめていた」経験があります。
また逆に「自分が描いていた物語ではない内容のように伝わっていた」という事がお客様のアンケートからわかってびっくりしたこともあります。

一方、一般的な演劇では、台詞を使用するため言語の壁が生じることがあります。言葉に頼るため、パントマイムほど観客の想像力を刺激し、直接的なコミュニケーションを取ることが難しい場合もあります。また、台本作成やセリフの暗記、舞台設定など、比較的、準備に多くの時間と労力が必要になる場合があり、制作面では、舞台装置や衣装、照明などにコストがかかる傾向があります。演者にとっては、台詞や決められた演技に縛られるため、即興性や柔軟性が制限されることもあるかもしれません。

しかし、これらの「デメリット」は同時に、各表現形態の独自性や魅力にもなっています。例えば、パントマイムの「言葉を使わない」という制約は、普遍的なコミュニケーションを可能にする強みになったり、特定のコミュニティの人たちの共感を生むこともあります。また、演劇の「言葉の使用」はやっぱり魅力的で、そこで起こせるドラマの迫力は、パントマイムにはできないことがたくさんあります。どちらも大好き。

体の動きをヒントに、想像力で遊ぶ演劇

パントマイムは言葉を超えた表現方法で、観客の想像力を刺激し、普遍的なコミュニケーションを可能にする独特な舞台芸術だといえるでしょう。

例えるなら、セリフのある演劇が友達と電話で話すようなものだとすると、パントマイムは友達とLINEでスタンプだけのやり取りをしているようなものかもしれません。
「おはよう」のスタンプを送ったら、相手が「おなかすいた」のスタンプを返してきて、あなたが「ラーメン」のスタンプを送る...みたいな感じです。言葉はないけど、スタンプの選び方や送るタイミングで、お互いの気持ちや状況を想像して、会話が成立していく。
時には「え?このスタンプどういう意味?」ってなることもあるけど、それもまた楽しいですよね。パントマイムを見るときも同じで、演者の動きという「スタンプ」を見て、観客がそれぞれの想像力で物語を紡いでいくみたいな・・・

その特性ゆえの課題も含めて、パントマイムは独自の魅力を持っています。この芸術は、言葉では表現しきれない感情や状況を、身体と表情だけで観客に伝える力を持っており、それが多くの人々を魅了し続けている理由なのかもしれません。

では、次の投稿では、もう少しマニアックな解説をしてみますね。


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