優雅なる芸術、バレエの誕生
こんにちは。芸能事務所トゥインクル・コーポレーション所属、パントマイムアーティストの織辺真智子です。
古代ギリシャ時代からのパントマイムや舞台芸術の歴史を少しずつ紹介し、今お話ししているのは中世〜ルネッサンス。コンメディア・デッラルテやクラウンなど、詳しい人は知ってるけれど・・・な芸術文化のご紹介をしてまいりましたが、今日はみなさんご存知、バレエの歴史をご紹介しますね。
今や世界中で親しまれているバレエですが、その歴史は15世紀のイタリアに遡り、17世紀のフランスで大きく発展しました。この期間のバレエの歴史は、当時の社会や文化と密接に結びついています。今回は、バレエがどのように誕生したのか、15〜17世紀の歴史をたどってみましょう。
イタリア宮廷に芽生えた新たな芸術
バレエの起源は、1500年頃のイタリアの宮廷にあります。「バレエ」という言葉自体、イタリア語の「ballare(踊る)」に由来しています。当時の宮廷では、華やかな祝宴や祭りの際に「バレット(balletto)」と呼ばれる舞踊が行われていました。これは音楽、詩、ダンス、衣装、舞台装置を組み合わせた総合的な芸術形式でした。
初期のバレエは、現代のものとはかなり異なっていました。踊り手たちは仮面をつけ、何層にも重なった豪華な衣装を身にまとい、大きな頭飾りをつけていました。動きは比較的単純で、小さなホップ、滑るような動き、お辞儀、緩やかな回転などで構成されていました。靴も現代のバレエシューズではなく、小さなヒールのついた靴を履いていました。
結婚がきっかけ!?フランス宮廷への伝播と転換点
バレエがイタリアからフランスへ伝わる大きなきっかけとなったのは、1533年のカトリーヌ・ド・メディシスとフランス王アンリ2世の結婚でした。イタリア出身のカトリーヌは、芸術愛好家として知られており、イタリアの洗練された文化をフランス宮廷にもたらしました。彼女が主催する華やかな舞踏会や祝祭を通じて、バレエはフランスの宮廷文化に根付いていきました。
1581年、フランスのバレエ史に大きな転換点が訪れます。カトリーヌ・ド・メディシスの主導で「王妃の喜劇的バレエ(Ballet Comique de la Reine)」が上演されたのです。
この作品は、バレエの歴史において画期的な意味を持つ公演として知られています。音楽、詩、舞踏、絵画(舞台美術)を統合した総合芸術として構想されました。作者のバルタザール・ド・ボージョワイユーは、従来の幾何学的な舞踊パターンに加えて、演劇的な要素を取り入れることを重視しました。
この公演の特徴的な点は、観客と演者が未分離の状態のアリーナのような空間で行われたことです。観客も作品の一部となり、舞台装置や音楽隊も観客との一体感を作るように配置されていました。
演奏を担当したのは国王付室内楽団。この作品は、単なる娯楽を超えて、カトリーヌ・ド・メディシスの文化政策の集大成とも言える催しであり、フランス宮廷の文化的洗練を示す重要なイベントでした。
踊る太陽王、ルイ14世
17世紀に入り、バレエはさらなる発展を遂げます。特に重要なのが、ルイ14世の治世(1643-1715)です。「太陽王」の異名を持つルイ14世は、自身も優れたダンサーでした。彼は、バレエを国家の威信を示す重要な文化政策の一つと位置づけました。
ルイ14世が「太陽王」と呼ばれるようになったのも、1653年に上演された「夜のバレエ」で太陽の役を演じたことがきっかけです。国王自身が踊ることで、バレエは貴族の間でも人気を博し、多くの貴族たちが出世のためにバレエを嗜むようになりました。1661年に、ルイ14世は、王立舞踏アカデミー(後のパリ・オペラ座バレエ団)を設立しました。
これにより、バレエの技術や表現方法の体系化が急速に進みました。足の5つの基本ポジションが確立されたのもこの頃です。
プロフェッショナル・バレエの誕生
17世紀後半になると、バレエは貴族の余興から本格的な舞台芸術へと変貌を遂げていきます。専門的な訓練を受けたダンサーたちが登場し、技術はますます洗練されていきました。ピエール・ボーシャンやレイノー・フイエといった舞踏家たちは、バレエの動きや記譜法を体系化し、理論的な基盤を築きました。これにより、バレエは再現可能な芸術として確立されていきました。
舞台技術も飛躍的に進歩しました。複雑な舞台装置や照明効果が導入され、バレエの視覚的な魅力は増していきました。音楽面でも、ジャン=バティスト・リュリのような作曲家たちが、バレエ音楽の発展に大きく貢献しました。
バレエと他の芸術との関係
この時期のバレエは、他の芸術分野とも密接な関係を持っていました。特に絵画との関連は興味深いものがあります。画家たちがバレエ公演を観覧し、そこから着想を得ることもあれば、バレエの振付師や舞台美術家が絵画から影響を受けることもありました。
例えば、当時の宮廷画家たちは、バレエ公演の様子を絵画に残しています。これらの絵画は、当時のバレエの衣装や舞台設定を知る上で貴重な資料となっています。また、バレエの振付や舞台美術にも、当時流行していた美術様式の影響が見られます。
バレエ誕生の優雅な足跡
15世紀のイタリアの宮廷から始まり、17世紀のフランスで大きく発展したバレエ。その歴史は、ヨーロッパの宮廷文化や芸術の発展と密接に結びついています。イタリアで生まれ、フランスで育ったバレエは、音楽、詩、絵画といった様々な芸術要素を取り入れながら、独自の表現形式を確立していきました。そしてその過程で、技術や理論の体系化が進み、現代のバレエの基礎が築かれました。
今回の記事では17世紀までの歴史なのでフランスで発展したんだよ、というところのおはなしまでですが、18世紀後半以降ロシアをはじめ他の国に広がり、大変ドラマティックな発展を遂げ現在に至ります。
それはまた別の機会にご紹介いたしましょう。