伝説の赤い粉
『音から入る美味しいもの』
なんとなく、音の響きで美味しそう!きっと好きな味に違いない!
と思ってしまうものがある。
私にとっては『プレ・バスケーズ』がそうだった。
フランス語で『プレ』は鶏肉だけど…
『バスケーズ』って何?
カゴかなんかに入ったフライドチキン!?
はてな?だらけの頭の中で私はアレコレと想像を膨らませた。
『プレ・バスケーズ』とはバスク地方でよく食べられている鶏肉の煮込みだ。
バスケーズとはカゴではなく、バスク地方のという意味らしい。
トマトやパプリカが入ったスパイシーな煮込みで、赤い色がとても印象的だ。
この『プレ・バスケーズ』に絶対欠かせないものが『ピマンデスペレット』という唐辛子である。
バスク地方のエスペレット村で作られていて、フランスで唯一原産地呼称のラベルを授与された唐辛子なのだ。
だから、エスペレット村の人達は、この唐辛子をとても誇りに思っているらしい。
『ピマンデスペレットの伝説』
唐辛子の原産地はメキシコと言われるけれど、
この唐辛子はどうやってエスペレット村に伝来したのだろうか。
哺乳類は唐辛子の辛さは痛いと感じるが、鳥はこの痛さを感じないらしい。
だから多くの唐辛子の場合、鳥がいろんなところに種を撒くと言われている。
エスペレット村の唐辛子も鳥によって運ばれてきたのだろうか。
実はエスペレット村のこの唐辛子に関しては鳥ではない別の伝説がある。
昔、むかし、エスプレッと村にたどり着いた一人の旅人がいた。
一夜の宿を探していたのだが、村の教会も酒場も自分には相応しくなかったのでどうしようか、と迷っていたところ、旅人は一軒の農家を見つける。
ドアを叩き『すみません、一晩泊めてもらえないでしょうか』と頼んでみた。
住んでいた夫婦は快く彼を受け入れてくれたけれど、家の中の暖炉の火は途絶え中は冷えきっていた。
見ると暖炉に焚べる薪も火を起こすものも何もない…
なんとかならなものかと考えていると、あっそうだ、コレがあった!と旅人は思いつく。
旅人はポケットから赤い粉を取り出し、それを大鍋に入れスープにして夫婦にのんでもらった。
唐辛子の辛さのおかげで、冷え切った体は温まり夫婦はとても喜んだそうだ。
旅人がこの家を去る時に、お礼にこの赤い粉を夫婦に託した。
それから、月日が経ち再び旅人のこの地を訪れると、なんと赤唐辛子の畑が広がり村人達が皆この唐辛子を使っていたそうだ。
今ではバスク地方へ行くと、この唐辛子はサラミソーセージやいろんな料理に使われている。
エスプレット村に唐辛子を伝えたのは鳥なのか、或いは心優しい旅人なのか。
本当のことは誰も知らないらしいが、私は後者の方だったら素敵だなと思う。
『プレ・バスケーズの作り方』
旅人と夫婦のことを想像しながらプレ・バスケーズを作ってみようと思い立った。
その為には『ピマンデスペレット』が必要だ。
『ピマンデスペレット』を探してみると、日本では結構な値段で売っているし、簡単に手に入るものではなさそうだ。
もし、難しいならば一味唐辛子でも代用できると思う。
『ピマンデスペレット』をやっとのことで見つけ出し、味見をしてみると想像したよりも、そんなに辛くない。甘さもある。
たくさん入れても火傷するような辛さにはならない、優しい唐辛子だ。
<材料:3人分>
鶏モモ肉250g、手羽先3本、パプリカ1個、ニンニク1かけ、玉ねぎ大1個、トマト大3個、トマトペースト大さじ1、白ワイン1/4cup、お水1/4cup、唐辛子1本、
ピマン・デスペレット(バスク地方の唐辛子)、小麦粉(鶏肉用)、ローリエ1枚、タイム、パセリなどのハーブ、オリーブオイル
<下準備>
*鶏モモ肉は半分に切り、さらに半身を3等分の食べやすい大きさに切る。
手羽先は先の細い部分を切りなはしておく
鶏モモ肉、手羽先に塩と胡椒を振り、常温で15分ほど置いて下味を付ける。
*パプリカは表面に油を塗り180度のオーブンで40分ほどロースト。
焼き上がったら紙袋などに入れて蒸らし、しばらくして皮とタネとり、角切り。
*トマトは湯むきし、ヘタをとって角切りにしておく
*玉ねぎは半分に切り、繊維を断つように粗く微塵にしておく。
<作り方>
1. 下味を付けた鶏肉に小麦粉を塗す。手羽の細い部分には小麦粉はまぶさない。
2. 厚手の鍋にオリーブオイル大さじ3を熱し、鶏肉を皮目から焼く。手羽の細い部分も焼目をつける。鶏モモ肉も手羽先も完全に火を通す必要はなく、表面に焦げ目がついたら別皿にとっておく。
3. 鶏肉を焼いた鍋にオリーブオイルを足し、ニンニク、玉ねぎを炒める。
4. 塩を入れ、玉ねぎが透き通るまで炒める。
5. 白ワインを入れ、アルコール分を飛ばず。
6. トマトの角切り、塩、手羽先の先の細い部分、水、ローリエ、タイムを入れて、蓋をして15分ほど煮込む。
7. トマトペースト、ピマン・デスペレット、焼き目をつけた鶏肉を入れ10分程煮る。
8. パプリカ、タネを取り除いた唐辛子を入れて5分ほど煮る
9. 5分経ったら唐辛子と手羽の細い部分は外し、味を整える。
10. お皿に盛りパセリのみじん切りを散らし、オリーブオイルを一振り。
*オリーブオイルはスパイシーなものが合う。
*手羽の細い部分は出汁用として使用
プレ・バスケーズはサフランご飯を添えてもいいし、普通にパンと食べても良し。