知らない夜の町を走ると涙が出てくる。
半径10㎞以内の地元といえば地元と言えなくもない範囲を、日が落ちてから自転車で走る。目的地はある。でも、そこまでの道のりは土地勘のない場所で、Google mapを見ながら先へ進む。
会社帰りの人や、部活帰りらしい学生、外食に出かけようとしているのだろうか4人家族の姿を横目に見ながら走り続ける。彼らはそこにいる。走り抜ける私はそこにいない。家の灯りの幸福とは対照的に、知っている人が誰もいない、誰も私のことを知らない町で、自分は本当に存在しているのかと急に胸が押し潰されそうになる。
通りを人や車が行き交う場所はまだいい。
人気のない暗い道に入り込んだ時、自分と景色が乖離をし始める。地面から自分だけがふっと浮いたような感覚になる。地に足がつかない。自転車は地面を走り続けているのに、景色の中に溶け込めない感覚。
鳩尾の上あたりがキュッとうずく。涙も出てくる。
私はここにいるのに、私の横を通り過ぎる人には私が見えていなくて、見えていないことが私には分かる感覚。
怖い。ひたする怖い。
暗い人気のない知らない町を走る時にいつも感じる感覚。
あー、そうだった。生きているってこういうことだった。