プロローグ
昭和18年(1943)8月初旬
上野動物園を管轄する公園課課長井下清が、大達茂雄東京都長官に呼び出された。
(大達)動物園の猛獣はどう考えてる
(井下)いや、動物園も、もうすでに焼夷弾が落ちたことがあるんだから、そのうち必ずやられるだろう。そしてあの猛獣たち が逃げたら、人心の動揺はたいへんなことになるから、ほ んとうに爆撃が始まったということになれば、即座に猛獣だけは毒薬で安らかに殺そうという準備をした
(大達)そうか、それで結構だ。けど、君たちなり動物園の係が先にやられたら、いったいどうなるのか
(井下) ・・・・・・・・・・・
(大達)君たちとしては、それは実に残念でたまらんだろうけど、東京爆撃というものは、半年早いか遅いかの問題なんだから、思いきってあの猛獣たちをすぐ処置してくれないか。これは表向きにやるといろいろと動揺するから、なるたけじょうずに、極秘裡にやってくれ
引用:「証言・私の昭和史 4太平洋戦争後期/テレビ東京編」169頁 15行・170頁7行