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『冬の夜ひとりの旅人が』はこんなふうに始まります

                 書店員 神谷 康宏

参加者が集まれば、3月24日の19時に高円寺のコクテイル書房で初めての読書会主催を行おうとしているのですが、選書をし、日時を決めてまもなく、ロシアがウクライナに攻め込みました。
心に泡立つものを感じました。その泡立ちは日々ますます強くなり、今はブクブクと溢れ出したその泡が液体に戻って足元を覆い、ともすればその流れに足首が取られそうになります。
ともあれ、読書会は当初決めた予定で行おうと思います。

イタロ・カルヴィーノが書いたこの本は、二人称の“あなた“が、イタロ・カルヴィーノという作家が書いた『冬の夜ひとりの旅人が』を書斎で読み始めようとする情景から始まります。この本の読者であるあなたは、小説の中の“あなた“とあなたが別人であることを承知していますが、すぐにこの小説の中の“あなた“があなた自身であるような気にさせられるかも知れません。
小説の中の“あなた“は、新しく手に取り、これから読み進めるつもりの『冬の夜ひとりの旅人が』の頁を開こうとしながら、“あなた“が新聞でこの本の刊行のニュースを知り、本屋に立ち寄ってこの本を買おうとした際に出会ったさまざまな他の書籍のことを思い出します。そこには、ざっとこんな本がありました。

①あなたが読んだことのない本
②読まなくてもいい本
③読書以外の用途のために作られた本
④書かれるより以前にもう読まれてしまっているというような類に属する限りでは開く必要さえもなくすでに読んでしまったとも言える本
⑤あいにくあなたの人生は今あなたが生きているものでしかないので仕方がないがあなたがもっといくつもの人生を生きることができたら喜んで読むかもしれない本
⑥読むつもりではあるが先に他のものを読むことにしている本
⑦値段が高くて半額で再版される時に買うまで待っていてもよい本
⑧同じくポケット版で再版されるまで待っていてもよい本
誰かに貸してくれと頼める本
⑨皆が読んでいるのであなたも読んでしまったような気になっているような本
⑩ずっと以前から読む予定にしていた本

その他、
・長年探していたが見つからなかった本
・現在あなたが没頭している事柄に属する本
・必要な折りにはすぐ手の届くところに置いておきたい本
・この夏にでも読むために取っておいてもよい本
・あなたの本棚のほかの本と並べて置くのにほしい本
・はっきりした理由はわからないが不意にやたらと好奇心がそそられる本
・ずいぶん以前に読んだため今もう一遍読んだらいいような本
・読んだふりをずっとしてきたが今本当に読んでみる気になった本
・著者なり題材なりがあなたを惹きつける新刊書
・新しからざる作者あるいは題材の新刊書
・(少なくともあなたにとっては)まったく未知の作者あるいは題材の新刊書

“あなた“がこのとき書店で出会ったこれらの本は、たまたま今回読書の対象に選ばれなかったわけです。では、今回選ばれた『冬の夜ひとりの旅人が』とは、いったいどんな本なのでしょう。“あなた“は否応なく次の頁をめくらざるを得ません。

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