風邪の床
ある相談があって 友人と会食した
師走のオフィス街
大正レトロなビル
ひとしきり 洋食を御馳走になって
いい気分で帰った
風呂に入って ゴロッと横になると
喉がおかしい
体が お湯の熱から冷め始めると
だんだん頭が痛くなってくる
少し飲み過ぎた酒のせいにして
その晩は
薬をひとつ飲んで
部屋の灯りを落とした…
明くる朝…
キッチンの給湯のスイッチが
ピーッと入った
しばらく何かを丁寧に洗う音が続いた
まな板が出され
何かを切る音が数回…
スゥーッと戸があいた
照明を背に立つひとが眩しい
食欲あるの? とその影が聞いてくる
何でわかった? と聞き返すと
テーブルに薬が置いてあったから と
淡々
何か食べないと薬がのめないか ゆっくりと身を起こした
リンゴここに置いとくね ベッドの脇にお盆が置かれる
皿に ひと口大にカットされたリンゴがのせられている
小さいフォークでさしてかじってみる
熱のせいか あまり味がしない
冷蔵庫の扉があいて しまる音
鍋が出されレンジに火がつけられる
何やらゴツゴツと 潰すような音がしてくる
しばらくしてレンジフードが静かになった
コップに何かをつぐ音がする
そのコップを持って部屋に入ってくるひと
ありがとう と受け取り湯気の立つコップに顔を うずめる
ホットミルクに微かな爽やかな甘味がある
この甘味って もしかしてリンゴ?
と目を見てたずねると
捨てるのもったいないから
皮を入れて温めてみたの と 種明かしするひと
ヒビっぽい唇につく ミルクの皮膜…
舌でペロッとなめて呑み込む…
今日は休んだほうがいいよ と
無理に笑いながら
言うひと
時計は6時半を
少しまわったところ…