Aquarius

中学一年生だった時友人の影響で洋楽を聴くようになった。黒い詰襟の制服を着て小学生とは違う世界が始まった。友人が貸してくれたレコードを聞くようになった。

Procol Harum 青い影、Otis Redding  The Dock of the Bay、Diana Ross & The Supremes  Love Child 、The Temptations  My Girl と中一が聴くには大人っぽい曲だったと思う。でも魅了された。

最初に自分で買ったレコードが The 5th Dimension Aquarius ( 輝く星座 )だった。まだ解散していなかったThe Beatles や The Rolling Stones はこの次のお小遣いで買った。

米国の星占いでは２０世紀までは魚座の時代で次の２１世紀は水瓶座の時代だとされていた。大きな時代の変わり目とされ保守的な生活から自由な世界に変わると考える人が多くヒットした。

太陽が春分の日に登る星座が歳差運動で魚座から水瓶座に変わる。大きな時代の時間軸が変わり人類の考え方も変わるとされる。

こうして始まった中学時代だが苦難の時代だった。一人親方として順調だった父の仕事が来なくなった。およそ一年半ほど仕事の依頼がなかったと思う。

父の仕事は家を建てること、現金で家を建てる人なんていない。ローンを組んで家を建てる。ローンを組む動機が無ければ父の仕事は無い。

家計は母のパートの収入が支えることになった。お小遣いを貰うことを止め成績はだだ下がりだった。

でも洋楽は聞きたい。お小遣い稼ぎにアルバイトを始めた。夏休みに近くのゴルフ場で友人と一緒にキャディーを始めた。

ゴルフ場の人は中学生のアルバイトに最低限のゴルフマナーを教えた。グリーンに乗ったらパターを渡す、旗竿を抜く、グリーンではラインを踏まない、OBボールなど。

夏休みは終わる。けどお小遣い稼ぎはしたい。土曜日は半ドンの授業があるので日曜日にキャディーをして稼ぎたい。さすがに普通のゴルフ場は夏休み以外で中学生が働くのは難しそうだった。

座間キャンプ内にゴルフ場がありキャディーができると聞いた。行ってみるとキャディーが出来た。座間キャンプは日本の治外法権であり問題なかった。当時キャディー代がワンラウンド６００円から８００円くらいだった。レコードのシングル盤が一枚４００円台だったから1ラウンドのキャディーでシングル盤一枚が買えた。彼らにとって１ドル３６０円の時代だったからキャディーは２ドルくらいの支払いだ。円が強い時のアジア旅行でチップを払う感覚と同じだ。

キャディーでお金を貯めてビートルズのアルバムを買った。オールディーズがビートルズを聞くのにお得なアルバムだった。

米軍は格好良かった。毎年一度施設を一般に開放する。アメ車のムスタングを見た時は本当に格好良い車だと思った。施設は芝生で覆われボーリング場がありソフトアイスクリームを並んだ人全員にくれた。

豊かな生活がどんなものか知った。同じような生活を送りたいと思った。

所ジョージが世田谷ベースで Made in USA を収集する気持ちは同世代だから理解出来る。

小学中学の時はアメリカ被れだったかもしれない。だとしたらアメリカは日本で上手く立ち回ったと思う。テレビでディズニー、モンキーズ、ララミー牧場、コンバットのサンダース軍曹、ソフトパワーで憧れる圧倒的な存在だった。

しかし、洋楽好きでレコードを貸してくれていた友人が最後に貸してくれたレコードは、今では伝説的なグループのはっぴいえんど、だった。

日本の音楽シーンには新しいジャンルが生まれつつあった。はっぴいえんど、吉田拓郎、泉谷しげる、アリスが人気となり井上陽水の氷の世界がアルバム１００万枚突破したのが決定的となり歌謡曲やグループサウンドと違う音楽のメインストリームが生まれた。

洋楽はビートルズが解散してから新たな潮流としてディスコサウンドが席巻して行く。

日本にはフォークソングが、洋楽はディスコサウンドが音楽の主流となっていった。洋楽にはビートルズが現役だった頃の新しいミュージックの潮流が失われつつあるように感じた。

Eagles の Hotel California がヒットした。何だか歌謡曲みたいで古めかしく魅力的な曲ではなかった。Eagles はアメリカの国鳥を表しアメリカの暗喩だ。Hotel California を西洋の大航海時代の終わり、彼等の嘆きの曲だと評した人がいるが同意する。

魚座の時代から水瓶座の時代へ進んでいくのだ。