スペイン旅行記〜マドリード闘牛編〜
前振り
先日、8泊10日のスペイン旅行に行ってきた。特に大きな目的もなく、「フランスとイタリアには行ってみたし、他に安くて美味いワインが飲める国はどこかな?」そんな不純な動機で決まったスペイン旅行であった。
今回のスペイン旅行ではマドリード(3泊)、サンセバスチャン(2泊)、バルセロナ(3泊)の3都市を巡った。今回は最初に訪れたマドリード、その中でも最終3日目に観た闘牛について書こうと思う。
スペインのイメージといえば、食事でいえばパエリア、ワイン、文化的なものでいえばフラメンコ、そして闘牛。僕も本当にこの程度の、スペイン版るるぶの序盤10ページで登場し尽くす程度の知識だけを持ってスペイン、マドリードに向かった。
闘牛場へ
闘牛当日、会場はラス・ベンタス闘牛場。マドリードでは唯一の闘牛場だからマドリードで闘牛を観たかったらここに来るしかない。しかも闘牛は基本的に日曜しかやっていないので、どうしても闘牛をマドリードで観たい場合はそこに合わせて旅行の日程を組む必要があるのだ。人生初闘牛、せっかくならばスペイン最大の闘牛場(世界最大の闘牛場はメキシコ、2位はベネズエラにあるらしい。まじかい。)で観てみようということで、僕は今回のスペイン旅行最初の訪問地をマドリードに決定していた。それくらいには闘牛への期待度は高かった。(他にスペインについてよく知らなかったというのもある)
さて、闘牛の開始時間は18時半。まあそんな開始前から早めに行くこともないだろうと開始15分ほど前に最寄り駅「ventas」で下車。スペインの駅名はストレートにわかりやすくて好感がもてる。
階段を登って外に出ると、もうすぐそこにラス・ベンタス闘牛場、その人がいた。
でかい。建物の雰囲気としてはローマのコロッセオに近い。そしてでかさも負けてない雰囲気がある。
今調べたらラス・ベンタス闘牛場は中のアリーナ直径60m、ローマのコロッセオはアリーナが86m×54mらしい。普通に負けてるが、そこそこいい勝負をしてるような気もする。
さて、時間も迫ってることだし、入場口でも探すかとウロウロしていると銅像を発見。
これはキマってしまっているのではなかろうか、という銅像を発見。ビシっとポーズを決めた人間の後ろで嬉々としてツノを振り上げる牛。この構図だと、この後ケツを牛にどつかれるような気がするが、こういうもんなのだろうか。
闘牛場周りをぐるぐるしながらチケットに書かれた入口を探す。外壁に牧場で平和に仲良くやっていた頃の牛くんたちのモニュメントを発見。
あれ。牛くんたちの前に人間がいるけど、この人たちは後ろからブッ刺されないんだろうか。
そう思ってチョロっとググってみたところ、闘牛の牛はヒラヒラしたマントなどの特定の「動き」に身の危険を感じて興奮するだけで、人間自体に最初から興奮するわけじゃないんだそうだ。なるほど。
それなら牛くんたちの前を歩くおじさんも、ある程度安心して馬に乗っていられるってわけだ。ヒラヒラした服さえ着ていなければ。
その後、無事入口を発見。中に入ることができた。
闘牛場の観客席に入る前に少なくはあるが、お酒を売ってるお店や観戦用のクッションを貸してるお店がある。イメージでいうと野球場の売店のような感じ。
そしてこのクッション貸し屋さん。超絶おすすめである。
なぜかというと、闘牛場の観戦席、想像以上にめちゃくちゃ石なのだ。
ラスベンタス闘牛場の座席表をみてなんとなく、一席ずつ何か座る場所が用意されてるのかなと思って行ったのだが。
こんな感じに、まじでめちゃくちゃ石なのである。
闘牛は大体2時間から2時間半ほど。その時間カチンコチンの石の上に座り続けるだけのケツを、僕は持ち合わせていない。
というわけで1.5€をクッションを借りたのだが、結果的には大正解であった。
ケツの守護者とウイスキーを手に入れ、あとは待機するのみ。
ちなみに、お酒の売店は闘牛が始まると閉まってしまっていたので、もしお酒を飲みながら闘牛を観たい人は闘牛開始前に買っておくとよい。
闘牛 一連の流れ
さて、待つこと数分、ご機嫌な吹奏楽の演奏と共に諸々入場。闘牛が始まる。
中央前列3人が今回の闘牛士。闘牛は3人×2回の計6回やるらしく、それぞれ最後に牛を仕留める人を闘牛士(マタドール)と呼ぶらしい。
その後ろにゾロゾロと続くのがマタドールの助手たち。マントをヒラヒラさせてススっと受け流すのは主にこの人たちがやっていた。
鎧を被ってデカいポニーみたいになってるキュートな馬くん×6とその上に乗るメンズ6人が続いて登場。
上に乗るメンズはピカドール(槍方)。
牛を馬に突撃させて、その間に牛くんをブスっと刺して牛の体力を奪う役割らしい。
馬くん×6の後ろに徒歩で続くのがバンデリーリョ(銛旗士)。
ピカドール(槍方)に槍で刺されてグッタリした牛に、銛を刺して活をいれる役割らしい。
そしてようやく列の最後尾。
ガランガランと呑気なスズの音を響かせながら歩いてくるロバくん三頭組×2。
三頭で仲良く歩いてて大変キュート。
今回の登場メンバーの中で筆者イチオシはこの子達に決まった。
さて、一瞬話は逸れるが、ラスベンタス闘牛場は方角によって「日向席」「日向から日陰に変わる席(夕方だからね)」「日陰席」に分かれていて後者の方がやや料金が高い。
僕はせっかくの人生初闘牛ということでやや高めの日陰席に座っていたが、この日はご覧の通り見事な曇天。曇天の中、日陰も日向もないだろうということで料金の安い日向席は結構混んでいた。
この日の闘牛は日向席はわりとガラガラだったが、今現在(2023年9月末)の直近のラスベンタス闘牛場の空き状況をみるとほぼ空きがない。
登場する闘牛士の人気によって席の埋まりが全然違うらしいが、闘牛士の人気なんて正直全くわからない、そんな僕のような人は安全に、早めに好みの席を確保しておくのがいいのではないかと思う。
ちなみにこの日はほぼ同時刻にレアル・マドリード対ソシエダ(日本代表の久保建英も出てたらしい)の試合がマドリードであったので、そちらに観客が流れていたというのもあるのかもしれない。
何にせよ、早めの予約がおすすめ。
話を闘牛競技に戻そう。
ラッパの音と共にこの日一頭目の牛が登場。これは後からわかったことだが、のちに出てくる牛と比べると一回り二回り小さかった。場が盛り上がるよう、後半にいくにつれて大きく、迫力ある牛を出すようにしているのかもしれない。
⚠️ここからしばらく熱中して闘牛を観ていたため、写真が途切れ途切れになってしまった。
最初はマタドール助手がマントをヒラヒラさせつつ、牛を煽る。
煽りに煽って牛が興奮したところで、鎧を着た馬登場。
マタドール助手たちが牛が馬の方に行くようしむけ、牛は馬の右脇腹にドスンと突撃する(ここで写真が欲しかった…)。この突撃はかなりの迫力で、広い闘牛場全体にドスンと鈍く重い音が響いていた。馬がよろめきながらも踏ん張っているところで、上に乗ったピカドール(槍方)が上から牛くんをブスっと刺す。
これで牛の体力を奪って、後のマタドールとの対決に向かっていくらしい。
また、背を刺すことで牛の頭が下がりやすくなり、視線がマタドールの振るマントに向かいやすくするらしい。
さて、ピカドール(槍方)が下がると次はバンデリーニョ(銛旗士)の登場。
突進してきた牛の背に銛を2本ずつ突き立てる。これを3人が次々にやって、牛の背に6本の銛が刺さる。
ちなみにこの銛は牛の体力を奪う目的でなく、マタドールとのフィナーレに向けて、牛をより興奮させる目的で刺しているらしい。
そしていよいよ、バンデリーニョ(銛旗士)×3が下がるとマタドール登場。
腰を振りながらマントを振って牛を煽るマタドール。
途中、牛の勢いとマントを利用して牛を転ばせた時には大きく歓声がおきていた。
マタドールによる演技が数分続いたのち、マタドールがアリーナ脇から剣を受け取る。ここまでくるとクライマックスまではすぐだ。
マタドールは牛の肩甲骨の間、数センチの急所を狙って剣を突き立て、牛を仕留める。この瞬間を真実の瞬間というらしい。
急所から剣を突き立てた先に心臓から出る大きな動脈があり、そこを貫くことで即死させることがマタドールの腕の見せ所、そして闘牛の美学なんだとか。
今回の闘牛でも数回、この真実の瞬間を観ることができたが実際に一撃で牛を即死させた回はなく、全て数回挑んだのち、仕留める、という具合。
マタドールが牛を仕留めると客席からは拍手。
この拍手の具合は演技によってマチマチで、僕のような素人から見ても「うーん、なんだかなかなか仕留められずにダラダラしているような気がするなぁ」という時にはパラパラとした拍手。
一方、2回目の突きで仕留めた時には拍手喝采、といった具合に観客からのマタドールの演技に対する評価の尺度として拍手が機能しているようだった。
絶命した牛は先ほど筆者イチオシのロバ三頭組の後ろに繋がれ、引きづられて場外へ。
生き物(もしくは生き物であったもの)がひきづられるというシーンはなかなか日本にいると観ることがなく、それなりのインパクトがあった。
この牛の退場時にも客席からは拍手。これもまた、牛の突きの迫力やマタドールの演技によって拍手の様子は全く違っており、闘牛はマタドールと牛との共同演技、そして拍手はその共同演技に対する評価、といったように機能しているように感じた。
ささやかなハプニング
さて、こんな具合に1回の演技が行われて、それが6回繰り返されるのが闘牛なわけだが、今回の闘牛ではややハプニングのようなものもあった。
銛旗士による銛刺しの演技中、突然アリーナから人がいなくなり、牛だけになったと思いきや、出入り口から白色メインの一回りデカい牛たちがゾロゾロと入場。
明らかにきょとんとする、先ほどまで演技していた牛くんを尻目にみんなでウロウロし始めた。
しばらく白黒混在でアリーナを満喫したのち、出入り口より白黒双方ご退場。
この時はキョトンとするばかりで何もわからなかったが、どうやら演技が続行不能となった時(おそらくは人間側の都合で?)、あるいは演技が非常に優れていたと観客、主催が判断した時には牛を「赦免」するという仕組みがあるらしい。
牛は最後の真実の瞬間まで演技せず、退場することを許されて、退場後は治療を受け、闘牛牧場で種牛となるんだとか。
いやいや、また治療して闘牛場に戻ってくることになるんじゃないの?
そう思ってもう少し調べてみると、一度闘牛に出場した牛は、ヒラヒラしたものだけでなく、人間そのものを狙うことを覚えてしまうため、再度闘牛に出場することはできないそうだ。
だが、そんな危なっかしい牛を牧場でのほほんと本当に飼っているのか、という疑問も浮かぶが、調べた限りではそういうことらしい。
今回退場して行った彼も、闘牛場でほのぼの余生を過ごしていて欲しいと思う。
闘牛場を出て
さて、闘牛は全6回あるということだったが、今回僕は5回目までをみて、次の予定であるフラメンコに向かうことになっていた。
その帰り道、闘牛場内を出ようとしたところで清掃員が床にホースで水を撒いているの場面に出会した。
よーく見てみるとコンクリートの濡れた地面にはじんわりと血の跡。
演技が終わったのち、牛はこの道を引きずられていったらしい。
そうかぁ、と思いながら出口を探してキョロキョロしていると、手前にいたおじさんが「出口ここ」と目の前の扉を指している。
どうやら亡くなった牛と同じ扉から退場するらしい。
誘導に従って出口に向かうと目の前に謎の建物が(直近の写真の左奥に見える)。
なんの建物だろうかとよーく目をこらしてみると。
中に明らかに「肉」がいる。
闘牛後の亡くなった牛は食肉として出荷されるとは聞いていたが、これほどまでにスピーディーに闘う牛から牛肉へと変貌を遂げてるとは驚きであった。
僕としては闘牛という競技、演技そのものよりも、この一頭の牛の世の中における役割変化の素早さに衝撃を受けた。
だが、この素早さもまた、近年の闘牛に対する社会的な風当たりの強さに対する対策の結果でもあるのだろうか。
そして、その「食肉工場」の横には、「食肉」がかつて「闘牛」であったことを示すようにロバ三頭が繋がれ、次の「闘牛」を運ぶ時を待っていた。
ロバたちが首を振り、次の時を待っているその横を、僕はスズの音に追い立てられるように闘牛場を後にした。
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