コロナ禍におけるオリンピック開催の意義とは?

感染拡大が継続する中で、オリンピックは開催されるべきだったか?

東京五輪の開会式が2021年7月23日に開催された。開会式の内容について、ドローンで出来た地球儀など個々の要素で感激させられるものはあったが、全体を通してどのようなストーリーを描き、何を伝えたかったのかがみえてこない、という印象を私は抱いた。

ただ、先日の開会式に一定数の日本人が冷ややかな視線を浴びせている理由は、開会式の内容以上に東京を中心に国内における新型コロナウイルスの感染状況が悪化する中で、五輪を開催するという選択に疑問を持っている人が多いからではないか、と考えている。報道によると、2021年7月17日、18日に実施された世論調査で「この夏に東京オリンピック・パラリンピックを開くことに賛成ですか」という質問に対して、「反対」が55%、「賛成」は33%という結果が出ている。個人的には、開会式における少々の不手際やストーリー性の薄さなどは国民の世論の後押しがあれば些末な項目に過ぎなかったのでは、と考えている。

オリンピック憲章の根本原則によると、オリンピズムは「肉体と意志と精神のすべての資質を高め、 バランスよく結合させる生き方の哲学」であり、オリンピズムの目的は「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を奨励することを目指し、スポーツを人類の調和の取れた発展に役立てることにある」と記している。新型コロナウイルス禍におけるオリンピックの開催自体が感染拡大に結び付いている可能性が高いとしても、それは平和な社会の奨励に繋がっているのか、という問いに対して私は否定的に捉えている。

コロナ禍の東京五輪開催による経済効果は皆無に近い

一般論として、五輪開催における開催国の経済効果には様々な考え方がある。五輪開催は経済にプラスと捉える論調もあれば、マイナスと捉える論調もあるし、「新興国における五輪開催はインフラ整備など経済面でプラスに働くが、先進国における五輪開催は過剰な設備投資をもたらし、経済面でマイナス」という論調もある。

今回の東京五輪についてはどのように捉えられるだろうか。日本銀行が出した「2020年東京オリンピックの経済効果」のレポートでは、東京五輪開催が日本経済にプラスの影響が出ると結論付けている(日本銀行が出しているレポートであるため、開催を後押しする結論となるようバイアスが掛かっていることは推測できる)。注目していただきたいのは、プラスの影響が出ると結論付けた理由として、①訪日観光需要の増加、②関連する建設投資の増加を挙げている点である。

皆さんもすでにお分かりの通り、①の訪日観光需要の増加についてはコロナ禍において訪日外国人が大きく減少しており、観光需要の増加は見込めない。国土交通省観光庁がJETROのデータをもとに作成した訪日外国人旅行者数のグラフをみると、2019年の3,188万人から2020年は412万人にまで減少している(図表1)。みずほ総研のレポートも指摘している通り、訪日外国人の消費は対名目GDP比のおよそ1%程度を占めているが、従来の増加シナリオから一転してこの消費の大半が消失したことは日本の経済成長を考えるうえで無視できない。

図表1: 訪日外国人旅行者数

観光庁

また、②の建設投資の増加については既に起きている事象であり、本質的には建設需要の先食いにほかならない。日銀のレポート内の図表でも建設需要が一巡した後は、その低下分を成長力強化など他の要素で補うシナリオとなっている(図表2)。残念ながらコロナ禍において大規模に観客を収容できる施設に需要が生じることは考えづらく、五輪が終わった後の施設の有効活用も難しいと考えられる。

図表2: 東京オリンピック開催の経済効果

成長力強化、輸出や内需の増加


もちろん、五輪を開催することにより、コロナ収束後の観光需要が増加するなど若干のプラス要素もあるかもしれないが、現時点では五輪開催による経済効果は皆無に近いと捉えることが正しいと考えている。

東京オリンピックの開催は、IOCの収益、世界中のアスリートの権威付けという意味では意義深いだろうし、それだけでも十分なのかもしれない。ただ、少なくとも日本にとって東京五輪の開催は経済面で得るものはなく、むしろコロナの感染を招く一因となっている可能性も高い。コロナの流行が収束しないことが予想される来年2月開催予定の北京五輪をはじめ、次回以降の五輪の開催について再度議論の必要があるのでは、と考えている。

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