脱炭素社会の実現に向けた日本の課題

「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」

菅首相は臨時国会の所信表明演説で上記のように宣言した。これまでは2050年に温室効果ガスを80%削減し、2070年までに温室効果ガスのネット排出量をゼロにする方針であったが、その目標を20年前倒しすることになる。

先進国が2050年カーボンニュートラルを目指す理由

日本に先駆けて欧州では、2019年12月に欧州理事会にてポーランドを除いて2050年までに温室効果ガスのネット排出量をゼロにすることに合意している。英国、フランスではすでにカーボンニュートラルの目標が法律に盛り込まれており、EUでも欧州気候法に2050年までのカーボンニュートラル実現の記述が加えられるよう、最終調整局面に入っている。また米国のバイデン新大統領も、パリ協定への復帰とともに、公約で2050年までのカーボンニュートラルを掲げている。

そもそも2015年のパリ協定合意の段階では、「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成する」ことが目標であった。どうして今世紀半ばである2050年までのカーボンニュートラル実現に、多くの先進国が舵を切っているのだろうか。

大きなきっかけは2018年10月に発表されたIPCCの1.5℃特別報告書の内容だと考えられている。特別報告書の中では、地球全体の産業革命後からの気温上昇が2℃の場合と1.5℃の場合で地球環境にどの程度の違いが及ぶかを述べている。1.5℃の場合、地球環境に及ぶ影響が2℃の場合と比較して格段に異なるという分析と共に、1.5℃上昇に抑えるには2050年までのカーボンニュートラル達成が必要であるという見解が示されたことだ。

日本がカーボンニュートラル達成のために乗り越えるべき最も大きな課題はエネルギー構成

日本がカーボンニュートラル達成のために乗り越えるべき最も大きな課題はどこにあるか。ずばりエネルギー構成である。現時点で日本はエネルギーの6割から7割を石炭・石油に依存している。いかにこれを風力、太陽光、水力などのエミッション・ゼロのエネルギーに置き換えられるかが一つのカギである。そこを達成しないと、たとえば電気自動車をはじめ、動力源を電力にシフトする動きを推進したところで、発電により排出される温室効果ガスの影響が大きければ削減への影響は限定的なものに留まるからである。

ここで問題になるのが原子力の取り扱いであろう。かつては原子力も日本において一定のシェアを占めていたが、東日本大震災の影響で現在は多くの原発の稼働がいまだに停止している状況である。菅政権は「安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立する」と基本的には原子力政策に前向きだと考えられる。確かにエミッション・ゼロという意味では原子力はそれに貢献するエネルギーである。

一方、国際社会で原子力はどのように取り扱われているだろうか。欧州ではどのような活動が環境の観点から投資適格に値するのか、EUタクソノミーという形で定義づけを行い、2020年6月に欧州議会でそれを採択した。その中で、原子力はブラウン、つまり環境の観点から投資適格に値するとは判断されなかった。

そうした国際的な世論が存在する中で大規模な原発事故を起こした日本が原子力を推進することは認められるべきことなのだろうか。確かに欧州の中でもドイツなどは脱原発を進める一方、フランスは原子力がエネルギー構成の70%程度を占めており、方針は別れている。タクソノミーの中でも現時点では原子力をブラウンと判断するものの、今後の技術開発動向などを注視する、と方針の変更の可能性に含みを持たせるような書き方をされている。しかし、個人的にはいくらカーボンフリーだからといって、福島第一原発事故で国民の健康、命を危険にさらした当事者である日本政府が原子力をエネルギーとして再び推進することには違和感を覚える。人命を危険にさらさない安全なエネルギーでエミッション・ゼロを達成できる形が理想ではないか。

あと、ネットゼロの目標達成に関して貢献が見込まれている技術としてCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という二酸化炭素の貯留・回収の技術がある。日本でも日本CCS調査株式会社が北海道の苫小牧で実証実験に成功しているが、コスト面、安全性(地盤の安定性)などでも課題は多い。解決に向けた取り組みが期待される。

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