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「MBTIは科学ではない」→しってた。by INTP (1) 再現性について

 最近「ユング/MBTIは科学ではない」という話で盛り上がっていますね(某Youtube等で)。それに乗っかろうということで、私も書いてみました。よく比較に出されるのはビッグファイブであり、これは科学である、と。私はこれを聞いて「え、本当ですか?」と疑いました、耳をね。MBTIが科学でないなら、ビッグファイブも科学ではないのでは?

 誤解のないように結論を先に書いておこうと思うのですが、
・MBTIもビッグファイブも同じ様なことをやっている
・両者とも科学ではない
・科学でなくても価値がある
エビデンスに固執する人には受け入れがたいかもしれませんが…人の心は抽象的なので科学で表現できるほど単純ではないでしょう。ユング/MBTI、ビッグファイブは、人の心の輪郭を捉えるための「抽象言語」であり、自分の心の状態を自分で知ったり、相手に伝えたり、相手から聞いたりするときの、表現手段です。「MBTIは科学ではない!」っていうのは「日本語は科学ではない!」って言っている様なもんで「いや、ま、まあそりゃそうだろう」という。
 「日本語は誤解を生む!だから争いが起きる!危険だ!」は真だと思いますが「だから喋るな!」とはならないですよね。間違っているのは「日本語を正しく使えないこと」であって、問題は言語ではなく誹謗中傷をする精神性です。健全な精神を持つ人達は日本語を使った方が幸せになります。私見では、MBTIやビッグファイブは科学と占いの中間ではないですかね。科学である必要もなく、便利であれば(幸福をもたらせば)良い、と。ただ現状、相性診断などMBTIの逸脱した誤用に関しては、占いと同じだと言われてもしょうがないですね。

 科学に重要な要素は「再現性」です。今回はこの一点に絞って書いていきたいと思います。


MBTIとビッグファイブのアプローチ

 ビッグファイブは外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性の5つの指標で評価します。100問くらいの質問票に、当てはまる/当てはまらないを答えることで、各指標が高いか低いかを見るものです。少し例を挙げると、以下の様な質問です。
・心配性だ
・友達を作るのは簡単だ
・想像力が豊かだ

 MBTIは、外向、直観、思考、判断の4つの指標が高いか低いかを見ます。ビッグファイブと同じように質問票に答える形式ですが、更にインストラクターとの対話を通して自分の最もらしいタイプを探します。

 両者のやろうとしていること(アプローチ)は同じですよね。
①軸となる指標を設定
②各指標が高いか低いか自己申告
③組合せで特徴を抽出
はじめの指標の設定が違うだけです。

両者とも科学ではない

 MBTIが科学ではないとする意見には以下の様なものがあります。いやでもそれビッグファイブも同じでは?という話を。

MBTIは時間を置いてやると結果が変わる。同じ人が、どんな選択肢を選んだか忘れるぐらい時間を置いてもう1度MBTIを受けると、3割から5割の人のタイプが変わる。
性格は基本的に安定している。よほど外向性を鍛えようとか何年もトレーニングしたら変わるが、科学的根拠のあるビッグファイブだったら、遺伝子とどれぐらい関連性があるかも議論できるぐらいに安定している。

ビッグファイブer

 同じアプローチを取っているのに、MBTIでは性格が不安定で、ビッグファイブなら安定する理由って何でしょうか。ビッグファイブの外向性が高いか低いかは、MBTIの外向内向と一致するはずです。またビッグファイブの開放性は、MBTIの直観感覚と強い相関を示すと思います。例えば「時間を置いたらMBTIの外向内向が変わる」が真ならば、ビッグファイブの外向性も変わるはずなので「ビッグファイブなら性格は安定」に矛盾します。現実的にも、ブラック企業で10年働いている人の結果と、そこから転職してホワイト環境で10年働いた後の結果で、ビッグファイブならば変化が起きない、とは考えにくい(質問内容がシンプル過ぎて多義的な解釈をしてしまう問題も)。MBTI、ビッグファイブともに「性格は不安定である」が真だと思います。
 他にも、戦争、パンデミック、大恐慌、飢饉、大災害、気候変動…こういった社会環境の変化によって大衆の性格が歪められる可能性もあります。「環境が劇的に変わらない限り、性格は安定」という不安定な前提を置いている以上、「再現性」を取り続けるのは難しい。もし環境変化が原因で性格が変わってしまったら、それは環境のせい?そのまま環境が元に戻らなかったら、どっちが本当の自分?今まさに社会が劇的に変わっている可能性は?…常に基準が揺らいでいるし自分も揺らいでいる。あまりに変数が多すぎます。「コロナ禍で外向性が下がった」などの解釈を与えることはできるし、とても便利で面白いと思いますが、それは本当にコロナ禍のせいなのかは謎ですよね。

 ユングやMBTIは自分のデフォルトポジションを発見することが目的であり、ビッグファイブも同じ目的のはず。INTP論理学者が一時的に外向的になったからと言って、ENTP討論者に変わるということではありません(16personalitiesではそう出るけども)。INTP論理学者外向的振る舞いをする、というだけ。これはMBTIの基本の考え方です。この基本の基本すら抜けている人がかなり多そうです。ただどうしても、外向とも内向とも言えない人、MBTIで特定のタイプに属さない人も確かにいるでしょう(その場合、INTP論理学者ENTP討論者が良いかと)。ユング/MBTIの目的は、自分の偏りの発見であって、型にはめ込むことではありません。ビッグファイブと同じ。
 つまり私が言いたいのは、MBTIもビッグファイブも同じ問題を孕んでいる、ということです。ある時点で質問票に自己申告する形式では、その時の気分に左右されるのは当然。従って「性格は変わる」という前提をもとにするなら、「直近に限らず、人生を通して自分らしい自分をイメージして答える」が守られなければ、ある程度の「再現性」すら保たれないでしょう。過酷な環境に置かれている直近の自分が気分で答えたら、歪んだ自分が結果に出ます。
 ユングやMBTIは「再現性が高くなるまで考え抜く」が前提なので、再現性が低いということはそもそも前提が満たされていない、と(先ほどのINTP論理学者ENTP討論者であれば「少なくともNT型」という特徴を抽出)。もし様々な検証をするのであれば、自分のタイプに確信を持ち各指標の特性を強く自覚する典型的な群と、再現性が低い対象群を区別して検証すべきです。ちなみに典型群の人達はもちろん、質問票の内容がどの心理機能に対する質問なのかも推測できます。そこまで深く学ぶ人でなければ、本来MBTIを扱えないでしょう。
 MBTIに最もはまるのがINTP論理学者だと言われていますが、このタイプは自分自身がミスタイプをしていないか何度も何度も検証し続けます。従って、ユングやMBTIはそんなに簡単で便利なツールではありません。本家MBTIが対話式で長時間かけてタイプを見分けるのはそのためです。ただそのMBTIも問題を抱えていると思いますし、数日の対話や考察でその人のタイプを確定できるのかは疑問ですが。

科学でなくても価値がある

 きっと科学以上に。幸せとは何か?という抽象的な問いに答えるのは、きっと抽象的なアプローチです。自分の進む道を邁進している時に、人は幸せを感じると思います。そのためには自分はどういった特性を持っていて、周りとは何が違うのかを理解せねばなりません。
 ユング/MBTIの目的は、自分が最もしっくりくる心の中心デフォルトポジションを見つけ出し、今の自分がそこからどれだけ離れているかを考えることです。そして自分が最もパフォーマンスを出せる心の位置はどこか、今の自分のストレスの原因は何か、そういったヒントを得ることです。

 お褒めの言葉も頂戴しました。

そもそもタイプ理論ってのが、ユング先生の趣味大爆発の、人間をですね、こういう風にタイプに分けれるんじゃなかろうかって考えて作ったっていう。言い方あれですけど作話というか創作なんですよ。だからあれはなんて言うかですね、その文学作品としては素敵なんですけども、哲学みたいな感じでは素敵なんですけど、あれは科学ではないんですよね。

ビッグファイブer

さすがいいこと仰る。ユングは素敵な哲学です。


それではまた!