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聴き語りtr.6 B'z「RING」 - ある人間の決壊
曲を聴いてひたすら語るシリーズ、トラック 6。
前回はこちら。
今回も引き続きB'zです。
B'zのパブリックイメージとまったく異なる、たぶんオタク(クソ雑概念)全員に突き刺さるだろうクソ激重バラードこと「RING」を取りあげます。
最初に断言しておきますが、大名曲です。
前段:作詞家「稲葉浩志」の視線
B'zについて語ることは無限にありますが、ここではまず歌詞を見てみましょう。稲葉浩志の作詞でひとつ特徴的なのは、そのロックなイメージに反して全く「マッチョ」でないところです。力任せに相手にズカズカ踏み込むようなことがない。
例えば代表曲『LOVE PHANTOM』のサビを追いかけてみます。まず「いらない何も捨ててしまおう」。これぞ大ヒットシングルの歌詞たるハイパー・キャッチーなフレーズ。しかし稲葉節の神髄は2番以降のサビにあります。
ふたりでひとつになれちゃうことを気持ちいいと思ううちに
少しのズレも許せないセコい人間になってたよ
欲しい気持ちが成長しすぎて愛することを忘れて
万能の君の幻を僕の中に作ってた
これが稲葉節です。いや、俺少しのずれも許せなくなってんだな。愛する気持ち忘れて幻つくってたな……。と、相手に対して何か思ってしまった時、まず自分にフォーカスして考え込む。
J-POPの歌詞としても、曲の後半で「LOVE PHANTOMとは何だったのか」をちゃんと回収してるのが熱い。そしてここで最初のフレーズがリフレインします。「いらない何も捨ててしまおう」。つまり万能の君の幻を捨てようという歌だった。そして高らかに「僕を全部あげよう」と叫んで幻影を振り切る。相手がどうのの前に、いやまず自分が愛するんだと。非常に優しくて力強い帰結です。名曲ですね。
こうした稲葉節、「相手の前にまず自分だ」の精神はそこかしこに見られます。ありすぎて挙げきれませんが、『love me, I love you』は曲名からしてそうですし、自分は『泣いて泣いて泣き止んだら』の「ねぇあなた都合いいようにとってくれていいよ」が大好きです(隙自語)。
ということで、大切な「相手」に踏み込む前に、まず「自分」にフォーカスしようとするのが稲葉浩志節です。素敵な大人というか、尊敬するものがある佇まいです。
そして語りたいのはここから。
どんなに自分が思っている相手でも、安易には踏み込まんとする男。
まず僕を全部あげようとする男。
じゃあ
大切だと思っている「相手」が、「自分」に全く応えてくれない場合どうなるのか?
壊れる。
「RING」を聴く(聴け)
■B'zらしくない、妖しいコード使い
B'zといえばキャッチーで馴染やすいメロディですが、「RING」の歌いだしは明らかに違う。非常に妖しく、緊張感のただようメロディになっている。
音楽的にいうと、普段がマイナーペンタトニックスケールで、RINGのAメロはドリアンスケール(※解釈の余地あり)。「淡い夢 鈴の音 優しく響き」。ここのコード進行は「Em6→CM7→Bm7→F#m7→CM7」。まずEm6で一番不安定なC#の音を「夢」にあてて幻想的に照らす。そしてBm7→F#m7と美しく安定したコードを「やさしく」に当ててから、CM7の不安定な着地を「響き」にあてて緊張感・浮遊感を演出する。
平たくいいえば、明らかに「ultra soul」ではないし、王道バラード「ALONE」「OCEAN」でもないということです。もっと不安定で妖しい響きを内包したバラードです。
■ある人間の決壊
その響きから歌われるのがこの歌詞。
淡い夢 鈴の音 優しく響き
夢中で追いかけ 僕は手を伸ばす
砂がこぼれるように さらり
君は逃げて
欲しい 全部欲しい
尊いもの それは君の中にあるから
連れていってほしい 内緒にしないで
どこか遠くに行くなら
小中学生のころはピンとこなかったんですが、ネットのファン感想で「ストーカーの歌」と書いてあってハッとしました。そしてもう少し歳を重ねてから「死別の歌」ではと思い始めて、しかしこの「内緒にしないで どこか遠くに行くなら」の粘着性はやはりそうかと。解釈は無限です。
いずれにせよ、主人公の気持ちに相手が応えてくれないのは明らかです。
そして先の「稲葉節」より、主人公はその思いを内に内にとひたすら溜めこむ。ここが象徴的です。
欲しい 全部欲しい
何でも差しだそう 悪魔がそう望むなら
連れて行って欲しい
ひとりに戻れない
たった今僕は目覚めた
「なんでも差し出そう」は『LOVE PHANTOM』と同じ姿勢でしょう。
だけど、この曲の相手はそれに応えてくれない。
だから延々と膨れ上がる。楽曲もキーが+2と上がる。
どんなに思っても 何度くりかえしても
この思い擦りきれはしない
わかるんだ
「わかるんだ」の歌唱が切実すぎて胸に刺さる。自分の中に確かなものがある。それを相手に示そうとする。だけどそれは伝わらない。だからすべてが逆流する。そしてラスサビで決壊する。ここのメロディの上ずり方がいい。
欲しい 全部欲しい
僕のためのものそれが君の中にあるから
連れて行って欲しい 内緒にしないで
どうかこの手をとって
「どうかこの手をとって」。
自分はよく「祈り」という言葉を楽曲の形容に用います。これもそのひとつですが、ここまで無力でどうしようもない祈り・叫びもない。力強いハイトーンが逆にこれ以上なく切実で虚しい。ここが死ぬほど好きなんですね。
これは一部のオタク(クソデカ主語に身を隠した俺)に刺さる感情図じゃないですか?独りよがりの空回りしたクソ激重感情(報われない)です。みんなも好きだろ(?)。
■映像的なカメラアングル
そしてアウトロ。ここの緩急も素晴らしい。映像的なカメラアングルを感じる。
松本さんは「RING」で"らしい"ギターソロは弾かず、タメのフレーズで魅せます。まずはAメロと同じく、m6の妖しく不安定な響きで聴かせる。ここは遠景のロングショットのイメージ。
そして2小節だけ、土石流のような速弾きが現れる。激情の決壊を思わせる。ここが手ブレカメラの荒々しいズームイン。
そのままなんとかフラつき歩くように舞い戻るも、突然音は途絶える。
このブレイクから、m6の非常にアンニュイな響きで終わるのが泣ける。楽理的にも解決感が非常に薄いテンションノーツです。ここでメジャーコードに向かえば、明るい兆しが見えるんです(例えばMr. Children「掌」はそうした楽曲です)。でも、そうしない。そうならない。主人公を取り残し、無機質な街だけを浮かべるような。何も救われない、突き放したエンディング。
狂おしい激重バラード、それが自分の中の「RING」評です。
だから大好き。大名曲です。
そして『ELEVEN』では、この主人公をもう少し俯瞰的にみた「愛のプリズナー」が続くことで深みを添えてくれます。みんな聴き返してみてくれ。
関連作
Syrup16g。B'zとまったく音楽性の異なる(立ち位置も)バンドですが、「自分の中にため込む」点においてだけ言えば、五十嵐隆と稲葉浩志は近いものがある。ここを説明するのにまたひとつ記事がいるんですけど苦笑。B'z好きに刺さるかは分かりませんが、この世にSyrup 16gとB'z稲葉浩志に時折似たものを感じる人間がいるとここに残しておきたかった。
B'zから「稲葉浩志」自体に興味を持ったならソロ作は必聴です。言うまでもないことですが。ちなみに自分が初めて聴いたソロ曲は、同じくB'z好きの友人に勧められた「透明人間」でした。B'zとはまた違う沁みる曲があるんだよね……。
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