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「よし、じゃあカラオケ行こうか。」

先日の現場でのこと。
男性の故人さまに対し、同席者の方もみな男性。
わたしを除けば、おそらく平均年齢は90にとどくのでは?というはじめての経験。

開式までまだ少し時間があったのでそれぞれに煙草を吸いに行ったり式場内で故人さまを前に話をしたり。
"多分こんな光景が日常で、ここにはきっと今目の前に横たわる故人さまもいたんだろうなぁ"とおもえるような、なんとも平穏な空気感が流れていた。

ここが葬儀式場で、故人さまがいて、参列者の方々がいて、わたしはおくり化粧師で。

そんな設定がそぐわないくらい、そこはもう日常のようだった。見たことも行ったことも聞いたこともないけれど、そんなふうにわたしは感じていた。

式をはじめる段になり、着せ替えを進めていくとまず「腕柔らかいなぁ」と。
「動くもんなんだね?」と隣合った人同士顔を見合わせる。
いつもどおりに硬直は次第に解けていくことやマッサージを行った旨を説明すると、「なんだか赤みがあって血が通ってるようだねぇ」なんて会話がまたはじまる。

旅支度として足袋や脚絆、手甲の紐を結んでもらう時にはみなさま一緒に出てきて故人さまを囲み、ひとりずつ固結びをしてもらう。
湯灌のときもやっぱり一緒。示し合わせるわけでもないだろうが、不思議な連帯感を感じさせる。

白いお着物を着付けて旅支度も終え、お顔色を整えた上で納棺。
最後にお棺の蓋を閉める前、ご印象の確認をして頂くためにお近くにお集まりいただくと、「じゃあ、カラオケ行こうか。」と一言。みんな口々に同意する。

誰も泣いていない。
けれどきっとかなしんでいないわけではない。
とても自然にその場の空気がながれていて、「あぁ、よかったな」と胸をなでおろした。

ほんとうに、おつかれさまでした。
いいところにいってくださいね。

そう、心の中でつぶやいて手を合わせた。


また、お目にかかれますように。

おくり化粧師 Kao Tan

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Kao Tan
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