That's why I love Canada(3)

わたしがカナダで出会った友人たちの中でも
だいすきなふたりがいる。
今回はそんな彼女たちとのエピソードを。

ーアフリカンフィロソフィー

私には仲良しのアフリカの友達ができた。
ルワンダ出身のSamanthaとケニア出身のBettyとだ。

私がまだ留学間もない頃、出会ったのだが、
なにせ英語を話すだけでしどろもどろ、すごく疲れる。
そんなときに、彼女たちは部屋に誘ってくれた。

「ライオンキングでもみよっか！」と
ディズニーのライオンキングを流してくれた。
ライオンキングなら内容もわかるし頭を使わなくてもいい、
とほっとしたのを今でも覚えている。

「ハクナマタタ！これはケニアの言葉よ」と教えてくれた。
そうか、わたしには映画の中の世界だったけれど、
彼女たちはこのフィロソフィーの中で生まれ育ったのか。

わたしが不安そうにしていると、
いつも白い歯を見せニカッと笑い、
「ハクナマタタよ、大丈夫！」と言って励ましてくれるのだ。
そして彼女たちに励まされると不思議と本当に大丈夫な気持ちになってくる。

私の中の「ハクナマタタ」が生きる言葉になっていくのを感じた。

ーThat's a life-

ある時、Bettyが長らく大学を休んでいると知った。
どうしたのだろう、と思っていると、
２週間ほど休んでいたBettyが戻ってきた。

訊くと、お母さまが亡くなられて母国へ帰っていたのだという。
どんな言葉をかければいいのか、
ショックで戸惑う表情をしていたのだろう、そんな私にBettyは言った。

「Don't worry,mayu. That's a life」
そう言って、ハグをしてくれた。
励ますべきはずのわたしが、逆に励まされていた。

それが人生、それが命、といった意味合いだろうか。
この言葉は深く深く私の心に残っている。

もしわたしなら、大丈夫と言いつつ、
「どうして、なんで、わたしの母が。」と
不幸のヒロインになっていたことだろう。

まだハタチそこそこの若さ、大切なお母さま、
きっとショックだったに違いない。
だけど、それが命だと、受け止めているBettyの強さ。

私には計り知れない深い人間哲学のようなものを
感じた瞬間だった。

ー不安はハグでシェアするものー

はじめてのExam（試験）Week、
図書館は24/7で夜中も一晩中空いている。
この期間はみんな必死で勉強するのだ。

私は交換留学生の身で、
すべての科目でなんと評定B以上を取らなければならない。
ひとつでも、Eを取れば強制送還、
免除してもらっていた費用返納、という厳しい条件のもと
送り込まれた学生であった。

勉強しても勉強しても不安で、カフェテリアでも
食事もまともに喉を通らない。
そこに、Samanthaがやって来た。
「どうしたの？」と心配してくれる彼女に不安な気持ちを話す。

すると、彼女は
「It's gonna be alright, mayu~!」と言って
ぎゅっと優しくハグをしてくれた。

ハグってこんなに不安が消えるものなの？
どんな言葉よりあたたかい気がした。

ーアフリカンパーティー

わたしは二人に誘われてアフリカンパーティーに参加した。
大きな会場には100人を超えるアフリカをルーツとする学生が集い、
ステージの出し物を見ながら、食べたり飲んだりするのである。

日本人のわたしに、彼女の友達たちも興味津々で
みんな仲良くしてくれた。

共通して言えるのは、ずっとノリノリだ。
ひとり残らずみんなノリノリで踊っている。
楽しい空間にいると、楽しくなってくる。

そして、せっかちな人がひとりもいない。
なんなら、パーティーのスタート時間も遅れているし。
だけど、そんなゆるさが心地よかった。

－スローライフ－

彼女たちといると、
時の流れが非常にゆったりに感じるのである。

集合時間を決めても遅刻はザラで、
遅刻なんてなんのその、笑顔でやってくるのだ。

最初は気になっていたものの、
時間にも縛られない彼女たちの魅力に負け、こちらも気にもならなくなっていった。
(集合時間を早く伝えたり、と自然と解決策を取るようになった。)

Samanthaの部屋にはキッチンがあり、
(わたしはカフェテリアのミールプランを選択していたため、キッチンがなかった)
よく美味しい料理ができたから食べて欲しい！と部屋へ呼んでくれた。

ある日のチキンハニーマスタード。
幸せそうに盛り付けて、「美味しいから食べて！」と言う彼女に、とても癒された。

日本だと、「美味しいか分からないけど、食べてみて！」と謙遜することも多い。
だけど、素直にいいものはいい！と言える価値観はとても素敵だと思った。

もうひとつ。Samanthaの仕草で
わたしがだいすきな仕草があった。

紅茶を淹れてくれる時のこと。
茶葉がある程度煮立ったら、
彼女は小さなスプーンにティーパックを乗せ、
紐をくるくると巻きつけ、最後の一滴まできゅっきゅっと優しくてしぼる。

その仕草がとても綺麗で優しくて、
わたしはうっとりしたのを覚えている。
今でもSamanthaを思い出しながら、
わたしもティーパックをきゅっきゅっと、しぼる。

言葉ではうまく言い表せないが、
焦りとか急ぎとか、そういうものが一切ない世界で
時がゆったりと流れているのである。

そして、そんな彼女たちといると
不思議と、なにも頑張らなくてもいい。
わたしも存在してるだけで尊いんだ、
といった感覚を感じるのである。

(完)へ続く。