
大阪・生野が熱い。令和6年度 生野ものづくりタウン事業成果報告会
2月28日(金)、令和6年度 生野ものづくりタウン事業(通称:IMT)成果報告会が行われました。この事業は「ものづくりを面白がる」をコンセプトに生野区のものづくり企業とデザイナーが新たな商品開発に取り組むというもの。昨年度に引き続き参加させていただきました。
昨年度の成果報告会はこちらから
今年度の参加企業
生野区役所ホームページにて募集を行い、今年度は5社が参加。
昨年度の事業に参加した企業もメンターとして引き続き。
ものづくり企業と共創するクリエイター募集
参加企業5社と共創して、新商品開発に取り組むデザインパートナーは共創プラットフォームAWRDにて募集が行われました。
プロダクトデザイナーの村田 智明さん、Makuake執行役員の菊地 凌輔さん、この事業をプロデュースする友安製作所代表の友安 啓則さんら審査員による選考、企業による選考を経て、5チームが組成されました。
新製品アイデアについて

今回縁あって採択いただいたのはカナビー株式会社(以下、カナビーさん)に向けた「MOSAIC BAG」というアイデア。
カナビーさんはPVC、いわゆる塩ビにエンボス加工を行っている事業者です。普段は不透明素材にエンボス加工を行ったシートを販売していますが、透明素材にエンボス加工を施すことで、昭和の家庭に必ずあったいろいろな模様が施されたガラスのような、中身が見えそうで見えない、角度によって見え方が変わる意匠が作れないかと考えました。

7月のアイデア募集から半年近く、試作品の完成を目指して取り組んできました。当日の報告会では70名を超える方にお越しいただき、笑いあり、笑いありなプレゼンでしたが、本記事ではその様子を振り返ろうと思います。

「エンボス加工しかできない会社は『ものづくり』ではない」
カナビーさんがこの事業に応募されたきっかけは、ある時に言われた「エンボス加工しかできない会社は『ものづくり』ではない」という一言でした。
要は中間工程しかやっていない、最終製品を作っていないという観点からの意見ですが、大変悔しい思いをされたそうです。自身をここまで育ててくれた家業ですし、その時の感情は想像に難くありません。その時の悔しさをバネに、初の自社製品を作り出すためにこの事業に手を挙げました。
アイデアを形に。試行錯誤の日々
提案したアイデアにとても興味を持っていただき、共創プロジェクトがスタートしました。
・エンボス生地はどれが良いか?
・生地の厚みは?
・バッグのサイズ感は?
・バッグの構造は?
具体的な仕様を詰めていく中、お互いバッグという商材は初の試みで試行錯誤の日々が続きます。

生地は普段使われていない金型を掘り起こして使うことにしたのですが、「昭和っぽい」「台所のガラス戸っぽい」というコメントや、透明感を大事にしすぎるあまり、全てをPVCで構成しようとしたら「見慣れたプールバッグっぽい」「ノベルティみたい」「素材的に高くは見えない」など厳しいご意見もいただきました。
そもそも透明PVCの製品としてバッグが良いのかまで立ち返り、別商材にするのか議論したことさえもありました。
最終的に、試作の方向性として「透明PVCの特性を活かしながら、本革と組み合わせてバッグとして品質を上げる」方針で進めることにしました。
この方針のもと、以下のポイントを詰めていきました。
生地の選定: ここはあえて変更せず。昔の世代にとって懐かしさを感じさせる柄ですが、ユーザーとして狙っていた20代に聞いてみたら懐かしさを感じる記憶がないので、かえって新しく感じてもらったためです。
バッグの構造: まずはバッグの「型」を調べるところから。バッグの教本を買ったり借りたりして一緒に学び、バッグとして定番サイズ・構造をしっかりと押さえました。
柄の組み合わせ: 型は変えず、見せ方を変える工夫として、あえて表面と裏面を45度回転させ、透けた時の意匠性を高めていきました。
生地の硬さ: 薄地のPVCではすぐにへたれてしまうのですが、とある意匠を実現するために試行錯誤をしていると、薄さは変わらず生地の硬度が上げられる発見がありました。まさしく『失敗から学ぶ』カナビーさんの企業理念を感じさせる出来事でした。
一連の過程では、同じく生野区で事業を展開されており、今回の試作に多大なるご協力をいただいた生田ランドセルの長井さんにかなり助けられました。本革と組み合わせるヒントも長井さんあってのことです。終業後、終電ギリギリまで試作いただき、本当に感謝ありがとうございました…!!!
試作品完成。報告会当日の様子
実際に中身を入れてみると、狙い通り。生地に近づくほどはっきり見え、遠ざかるほどモザイクのようにぼやけていきます。

当日の成果報告会では、新商品のコンセプトや開発過程を紹介しながら、実際に試作品を手に取っていただきました。カナビーさんとともに、これまでの開発の過程や発見を振り返りながらプレゼンを行いました。

アドバイザーや来場者からは、
透け感のあるバッグは一定数に人気なカテゴリ
PVCと組み合わせる生地、PVC自体の色&エンボスの組み合わせでバリエーションが無限に広がりそう
PVCのバッグはカジュアルな印象が強かったけど、このデザインなら上品に持てる
エンボスの模様が光の加減で変化するのが面白い!
といった声や、
ジッパーやフタで開口部が閉じる構造だと安心感につながる
もう少し中身が見えない工夫が必要
20代向けならもっと色味をビビッドにした方がいい
本革以外にもファブリックと組み合わせるラインがあっても良いのでは?
といった声をいただき、今後のブラッシュアップの参考になりました。直接話を聞ける場は本当に貴重です。
今後に向けて
今回の商品開発を通じて、カナビーさんにとっては「エンボス加工を活かした自社製品づくり」の第一歩を踏み出すきっかけとなりました。
今後は、報告会で得たフィードバックを基に、ディテールの改善を行いつつ、小ロット生産の方法、販売チャネルの選定、ターゲット層の明確化、テストマーケティングの実施など、やらなければならないことばかりです。本業もある中で、自社製品の事業化の可能性を探って行きたいと思います。
巻き起こせ、生野旋風

今回は2年続けての参加となりました。大阪市生野区の製造業事業所数は668(2022年時点)と府内で五指に入る、ものづくりの街です。この事業にも1期生を含め区内の事業者が増えていき、ますます熱が高まっています。私が前回ご一緒した開発商品もまもなくというところに来ており、今年はものづくりタウン生野の旋風が巻き起こるはず!
生野区の皆さま、アドバイザーの皆さま、参加された事業者、デザイナーの皆さま、この事業をプロデュースいただいた友安製作所の皆さま、お疲れ様でした。来期も懲りずに応募します!笑
47都道府県と仕事したいです!