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川崎大師の銘店が挑む「久寿餅フィナンシェ」と地域デザインの可能性(神奈川県)

100年以上の歴史を持つ老舗「住吉」と、新たな視点を持つ地域の学生たち。そして、プロボノデザイナーとして関わる私たち。この三者が交わることで生まれたのが、「久寿餅フィナンシェ」 です。

住吉の伝統である久寿餅をベースにしながらも、現代のスイーツ文化に寄り添ったフィナンシェへと進化させる——この挑戦は、単なる新商品開発ではなく、地域に根ざしたブランドが未来へ歩みを進めるための大切な試み でした。そして、その過程に地域の学生たちが関わることで、プロジェクトはより多層的な意味を持つことになりました。



伝統の再解釈と、新しい文脈づくり

住吉の久寿餅は、江戸時代から続く発酵食品の一つであり、もちもちとした食感と素朴な甘みが特徴です。しかし、現代の食文化の中で、その魅力を伝える方法は限られていました。

©︎住吉

そこで、今回のプロジェクトでは、「久寿餅を現代のスイーツ文化と融合させる」というコンセプトが生まれました。結果として誕生したのが「久寿餅フィナンシェ」です。これは、久寿餅の持つ発酵由来の独特な風味を生かしながらも、洋菓子としてのなじみやすさを兼ね備えたスイーツ です。

伝統を単に守るのではなく、現代の価値観にフィットさせながら新しい文脈を作る。このアプローチが、地域ブランドの持続的な発展には不可欠だと感じました。


ロゴデザインで表現する「伝統×革新」

©︎住吉

今回のロゴデザインでは、住吉の歴史と職人技の品格を感じさせながらも、新しい世代にも親しみを持ってもらえるバランスを重視しました。

  • 久寿餅の「和」の風味と、フィナンシェの「洋」の要素が調和するデザイン

  • シンプルで洗練されたロゴにすることで、現代的なスイーツの印象を演出

  • 住吉の伝統に根ざしながらも、新たな顧客層に届くデザインアプローチ

これらの要素を踏まえ、ロゴには伝統を感じさせるフォントと、柔らかく温かみのある印象を取り入れました。


地域の学生とともにデザインを考える意義

このプロジェクトでは、地域の学生たちと一緒にブランドの価値を見つめ直し、コンセプトやビジュアルについて議論する機会を持ちました。プロのデザイナーとして、ただデザインを提供するだけではなく、学生たちとともに考え、学び合うプロセスそのものが価値のある体験だった と感じています。

学生たちの視点は、新鮮で率直でした。

  • 「久寿餅って、もっとおしゃれなパッケージになったら若い人にも買われるのでは?」

  • 「伝統を大切にするのはいいけど、それをどう“今っぽく”伝えればいいのか?」

  • 「ロゴはシンプルなほうが、洋菓子としての印象が強くなるかも?」

こうした意見は、ブランドの未来を考えるうえでとても示唆に富んでいました。

私自身、デザインのプロとしての経験はありますが、地域ブランドの価値を再解釈するためには、当事者だけでなく、異なる世代の視点が不可欠 だと改めて実感しました。


プロボノとして関わる意味

プロボノデザインは、単に「無料でデザインを提供する活動」ではありません。むしろ、地域や伝統産業が直面する課題を、デザインの力で解決すること に大きな意義があります。

今回のプロジェクトでも、以下のようなことを意識しました。

  • 地域ブランドが継続的に発展するための「新しい価値提案」をする

  • デザインを通じて、地域の人々にブランドの魅力を再認識してもらう

  • 学生たちがプロジェクトを通じて、デザインの社会的な役割を学べる場を作る

デザインの仕事は、「見た目を整えること」ではなく、「課題を解決し、新しい可能性を生み出すこと」だと私は考えています。その視点を、地域の学生たちと共有できたことは、大きな成果のひとつでした。


デザインが、地域の未来をつなぐ

今回のプロジェクトで生まれた「久寿餅フィナンシェ」は、単なる新商品ではなく、住吉の伝統と、未来を担う世代の視点が交差して生まれたブランド です。

そして、このような取り組みを積み重ねることで、地域の伝統産業はより多くの人に届き、新しい世代に受け継がれていくのではないでしょうか。

デザインの力で、地域の未来をつなぐ。 それが、プロボノデザイナーとして関わる意義であり、これからも大切にしたいテーマです。

今後もこうした地域との共創の場を大切にしながら、デザインが果たせる役割を模索していきたいと思います。

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