本音に寄り添うコンセプト日本酒「たまには酔いたい夜もある」(沢の鶴・兵庫)
「100人の唎酒師」に続いて、日本酒『たまには酔いたい夜もある』(通称『たま酔い』)の参画プロジェクトに参加しました。このプロジェクトは、忙しい日々を送る現代人の心に寄り添い、「たまには気兼ねなく酔いたい」と思う夜のための日本酒を提案するものです。
プロジェクトを通じて、ものづくりの現場から消費者の手に渡るまでの物語を形にする責任と楽しさを感じました。この記事では、開発の舞台裏を通じて、デザインの考え方やアイデア出しのコツ、さらには消費者の声にならない本音を掬い取る重要性についてお伝えします。
消費者の声にならない本音を捉える
『たまには酔いたい夜もある』、実に変わった名前の日本酒です。
商品開発において最も重要なのは、消費者の声に耳を傾けることです。ただし、顕在化している意見だけでなく、言葉にならない本音に寄り添うことが、特に大切だと感じています。
例えば、『たま酔い』のターゲットは、仕事や家事、育児を頑張る女性です。彼女たちは日々の忙しさの中で、自分の時間を持つことすらままならないことが多い。そんな彼女たちが「本当に欲しいもの」は、単に飲みやすいお酒ではなく、ほっと一息つける時間や、自分へのささやかなご褒美としての体験と考えました。
酔うこと自体避けたいもので、「たまには酔いたい」という気持ちは表向きには語られないかもしれません。しかし、その背景にある「疲れた自分を癒したい」「少しだけ自由な時間を楽しみたい」という心の声を捉えることが、この商品の本質を形作る鍵でした。
ネーミングに込めた想い
「たまには酔いたい夜もある」というネーミングは、消費者の本音をそのまま表現しています。これには、以下のような意図が込められています。
親しみやすさ:
思わず買っていただける方がクスッと笑える名前であること。感情的な共鳴:
商品を通じて「自分のことをわかってくれている」と感じてもらうこと。新たな価値提案:
「酔う」という行為を、ポジティブで特別な体験に変えること。
実際、試飲会では、名前について「わかりやすい」「このままの気分で飲みたい」との声をいただきました。また、ラベルデザインも含めて、帰り道に夜空を見上げるような癒しのイメージを伝える工夫を凝らしました。ラベルのパール調の光沢は、夜空の星々を思わせ、手に取った瞬間から特別なひと時を演出しました。
消費者と共創するプロセス
『たま酔い』の開発では、クラウドファンディングを活用し、消費者の意見を直接取り入れることに力を入れました。試飲会でのフィードバックやアンケートを基に、味わいやデザイン、割材の提案などをブラッシュアップ。消費者との共創によって、商品が磨かれていく感覚を強く実感しました。
例えば、割材として提案されたレモン炭酸水や無糖の紅茶は、実際に試飲会で試されたものです。さらに、参加者からは「冷凍フルーツを氷代わりに使うとおしゃれ」という意見も寄せられ、商品ページでその楽しみ方を紹介しました。こうした消費者の声を活かすことで、より親しみやすく、自由な飲み方を提案できたのです。
ルールに縛られない自由な楽しみ方
日本酒だからといって、必ずしもストレートや燗で飲む必要はありません。『たま酔い』は、濃厚な甘みと旨みを持つため、割材との相性が抜群です。たとえば、カルピスソーダで割ると乳酸系の爽やかな味わいに変化し、桃のジュースを合わせるとデザート感覚のお酒に早変わりします。
開発メンバーの間でも、「アイスにかけて大人のスイーツに」「チョコレート菓子とのペアリングが最高」といった自由な提案が相次ぎました。この自由な飲み方が、消費者の「自分らしい楽しみ方」を後押ししています。
モノづくりからコトづくりへ
『たま酔い』の開発も『100人の唎酒師』の時と同様、単なるモノづくりにとどまりませんでした。この商品が生み出す「体験」をデザインすることに重点を置きました。
たとえば、クラウドファンディングで開催された「たまには酔いたいWeb飲み会」では、開発秘話や飲み方の提案をリアルタイムで共有し、消費者と直接つながる場を作りました。このようなコトづくりのアプローチは、単なる商品の提供を超えて、人々の生活に新しい価値を届ける方法だと実感しました。
気軽に酔える世の中になるように
『たま酔い』は、300年の歴史を持つ沢の鶴と、斬新なアイデアを持つTRINUSのコラボレーションから生まれました。この商品がもたらす「たまには酔いたい夜」の体験が、多くの人々にとって新たな日本酒の魅力を知るきっかけになることを願っています。
誰だって、酔いたい日があるはずです。でも、それができない環境にいたり、遠慮してしまったりする人もいます。たまになら酔っても良い、そんな寛容な世の中になればと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。このストーリーが、ものづくりやデザインに携わる皆さんにとってインスピレーションとなれば幸いです。また次のプロジェクトでお会いしましょう!
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