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西馬音内と毛馬内——伝統を纏う盆踊りの美(秋田県)

盆踊りには、日本の文化や歴史が息づいています。その中でも、秋田県の「西馬音内盆踊り」と「毛馬内盆踊り」は、ただの夏の風物詩ではなく、地域の誇りとして守られてきた大切な伝統行事です。それぞれに異なる特徴を持ちながらも、共通するのは「衣装の美しさ」と「踊りが紡ぐ幻想的な空間」。今回、私はこれらの盆踊りの衣装展示に掲出するポスター制作を担当しました。



「西馬音内盆踊り」——幽玄の美を可視化する

西馬音内盆踊りは、国指定の重要無形民俗文化財であり、ユネスコ無形文化遺産にも登録されるほどの価値を持つ伝統行事です。踊り手たちは、表情を覆い隠す編み笠や端縫い衣装を纏い、静かに、しかし確かに流れるような舞を披露します。その佇まいはどこか儚く、夜の闇と一体化するかのような美しさを持っています。

この「幽玄さ」をポスターで表現するために、私は以下の点を意識しました。

  • 衣装の質感を際立たせるライティング

    • 端縫い衣装の繊細な縫い目や、編み笠の影を美しく捉えることで、静謐な雰囲気を引き出す。

  • 色鮮やかな着物のテキスタイル

    • 魅力的な着物の柄をテキスタイルとしてまとめて、遠目から見ても目を引くデザインに。

西馬音内盆踊りのポスター制作は、ただの写真やビジュアルではなく、「その場に漂う空気」をどう伝えるかの試みでした。


「毛馬内盆踊り」——音の躍動を視覚化する

一方、毛馬内盆踊りはまた異なる魅力を持っています。西馬音内のような「静の美」とは対照的に、ここには「動の美」があります。特に、直径1mを超える大太鼓「呼び太鼓」の響きは、この祭りの重要な要素です。19時を過ぎると、その音が会場全体を包み込み、踊り手たちは一層力強く舞い始めます。そのダイナミズムをポスターで表現するにはどうすればいいか——。

考えたのは、「視覚で音を感じさせる」 ということ。

  • 大胆な動線を取り入れたデザイン

    • 躍動する踊り手たちの体の動きに合わせ、視線を誘導する構図を作る。

  • 衣装の動きを強調

    • 風になびく布や躍動感のある着物の広がりを意識し、踊りの生命力を伝える。

結果的に、ポスターには「音が聴こえるようなビジュアル」を作ることができました。


【ボツネタ】「伝統×モダン」の実験的アプローチ

制作過程では、そのほかのデザインも試しました。例えば、以下のような案がありました。

① 切り絵のようなイラストレーション

着物のテキスタイルで踊る人の様子も描いた方向性です。

② 手にフォーカス

「西馬音内盆踊り」の魅力である美しい手の動きにフォーカスした方向性です。


「伝統行事のポスター」に求められるもの

今回のプロジェクトを通じて感じたのは、「伝統行事のポスターは、単なる広告ではない」ということです。それは、文化や歴史を未来へと伝える 視覚的な橋渡し の役割を果たすものです。

ポスターが掲出されることで、次世代の人々が「この盆踊りを見てみたい」「自分も参加してみたい」と思えるかどうか——それが、本当の意味での成功ではないでしょうか。

西馬音内盆踊りも毛馬内盆踊りも、地域の人々によって長年受け継がれてきました。これからもその価値が失われることなく、未来へと繋がっていくことを願っています。


最後に

伝統とデザインの関わり方には、まだまだ多くの可能性があると感じています。ポスター制作という形で関わることができたのは、私にとっても貴重な経験でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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