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日本のものづくり技術が結晶した一脚のグラス「TOWAGLASS(石川べっ甲製作所・東京)」
PROJECT NOTE
TOWA GLASS(石川べっ甲製作所・東京)
江戸べっ甲という伝統技術と現代のものづくりが融合し、新たな価値を生み出した『TOWA GLASS』。このグラスの開発は、まさに「創意工夫」と「困難への挑戦」の物語でした。私はデザイナーとして、このプロジェクトに携わる中で、伝統の可能性を再発見し、ものづくりの奥深さに改めて感銘を受けました。
べっ甲×ワイングラスという新たな挑戦
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江戸べっ甲の伝統技術といえば、かんざしや眼鏡、時計などのアクセサリー類に使われることで知られています。今回開発に取り組んだ「ワイングラス」というアイデアは、それまでのべっ甲製品の常識を覆すものでした。
というのも、べっ甲は基本的に水が得意ではなく、防水加工はあるものの、水回りの製品は非推奨であったためです。
この挑戦に応えたのが、石川べっ甲製作所の七代目・石川浩太郎さん。江戸べっ甲の技術を継承する職人として、"作り手としての面白さ"を感じ、このプロジェクトに全力で取り組むことを決意いただきました。
持ち手に込められた技術と工夫
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『TOWA GLASS』の特徴の一つである持ち手部分には、江戸べっ甲の「貼り合わせる」という技術が遺憾なく発揮されています。およそ2mmという極薄のべっ甲を何十枚も重ねて棒状に成形するこの作業は、単なる技術ではなく、職人の経験と繊細な手作業が求められる工程です。
べっ甲自体が持つ癖を整えるには、1枚1枚を平らにする必要がありますが、時間が経つと素材は元に戻ろうとする力が働きます。この課題に対して、穿孔加工の技術を得意とする事業者と連携し、持ち手部分に直径1mmの穴を開け、芯を通すという工夫が施しました。これにより、強度と形状を保つことが可能になりました。
一見シンプルに見える持ち手の裏側には、こうした困難を乗り越えた技術の結集が隠されています。この工程を通じて感じたのは、伝統技術に対するリスペクトと、現代技術との融合が持つ可能性です。
画期的な取り外し可能な構造
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『TOWA GLASS』のもう一つの革新性は、グラス部分が取り外し可能な設計です。この機能により、上部だけ水洗いでき、手入れが簡単になるだけでなく、赤ワイン、白ワイン、スパークリングワインといった用途に応じてグラスの形を付け替えることができます。
この取り外し構造を実現するためには、グラス製造、金属加工、接着加工といった異なる分野の技術が必要でした。国内メーカー4社との密接な連携により、初めて可能になった仕組みです。異業種の技術者たちが一丸となって開発を進めたこのプロセスは、ものづくりの可能性を広げる重要な学びとなりました。
困難を乗り越える力
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『TOWA GLASS』の開発は決して平坦な道のりではありませんでした。伝統技術と現代技術を融合させる過程では、予期せぬ問題や課題が次々と発生しました。しかし、プロジェクトに関わる全員が「絶対に新しい価値を生み出す」という強い信念を持ち続けました。
例えば、べっ甲の癖を整える工程では、試作を何度も繰り返し、最適な方法を模索しました。さらに、取り外し可能な構造を実現するための接合技術では、精密な調整が必要でした。こうした細部へのこだわりが、最終的に製品の完成度を高めることにつながりました。
永遠の幸せを願うデザイン
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『TOWA GLASS』の「TOWA」という名前には、「永遠」の意味が込められています。長寿の象徴であるべっ甲を使用することで、永遠の幸せを願う想いを表現しました。もちろんグラスも生涯保証をつけています。このグラスが特別な祝杯の場で使われることで、人々の喜びのひとときを彩る存在になることを願っています。
学びとこれからの挑戦
このプロジェクトを通じて、私は伝統技術の可能性を改めて認識しました。そして、困難に直面したときこそ、チームで協力し、新たな発想を生み出す力が重要であることを実感しました。
デザイナーとしての役割は、技術者や職人と共に課題を解決し、最終的に製品を通じて感動を届けることです。『TOWA GLASS』はその好例であり、私にとっても大きな学びとなるプロジェクトでした。
これからも、伝統と革新を融合させ、新たな価値を生み出す挑戦を続けていきたいと思います。読んでいただきありがとうございました。
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