見出し画像

癇癪持ちのベートーベン 彼の怒りとは?

ベートーベンが癇癪持ちで怒りっぽい変人だったという話は有名だが
これは彼の生徒のレッスンでの行いが大きく影響をしていると思われる
しかし、その真意はいかに?

カール・フリードリヒ・ヒルシュ(ベートーベンが対位法を習っていた音楽家の孫)の証言に

弟子に対して恐ろしく厳格で、間違いをおかしたりすると猛烈に腹を立てた。すると彼の顔は真っ赤になり、こめかみや額の静脈がみるみる怒張した。また機嫌が悪かったり、いらいらしている時には、この芸術の徒弟をしたたかにつねりあげた。それどころか肩にかみつくことさえあった。
(ベートーベン訪問 M・ヒュルリマン(著) 酒田健一(訳))

とある
他には生徒を叩いだの楽譜をビリビリに破いただのと言った話があり、これらのエピソードがベートーベンをベートーベンたらしめている

しかし、彼には彼の言い分がある

ベートーベン唯一の作曲の弟子と言われるルドルフ大公に対して上記のような振る舞いを行い、それをゲーテがとがめた際、ベートーベンはこのように返答している

私がルドルフ大公に教えることになった時ですが、彼は私を控えの間で待たせました。それで私は彼の指をこっぴどくねじりあげてやりました。なぜそういらいらしているのか、と聞かれたので私は、控えの間で時間を空費させられたので、これ以上無駄に時間を潰すのが我慢ならないのです、といいました。
私は大公に「あなたは誰かに勲章をかけてやることはできますが、しかしそのためにかけられた人間はちっとも良くはなりません。宮中顧問官や枢密顧問官を作ることはできても、一人のゲーテも、一人のベートーヴェンも作ることは絶対にできないのです。ですからあなたは作ることのできないもの、それからご自分でまだまだだということに対しては、敬意を表することを学ばなければならないし、それがあなたのためになるのです」といってやりました。
(ベートーヴェンとその甥 シュテルバ夫妻(著) 武川寛海(訳))

一見、横暴に見えるベートーベンの行動も、彼なりの筋が通っている
また、この後もルドルフ大公との関係は良好に続き、彼だけが最後まで途絶えることなくベートーベンへの年金を送り続けたことを考えると、大公も自分の行いを反省したのではないだろうか

ベートーベンがつねったり噛み付いたりと言ったことだけをフォーカスすれば、なんという人間だろうと思ってしまうが、それはその出来事だけを見ているにすぎない

次は、実際にレッスンを受けていた側の証言を見てみたい

あるパッセージのどこかを間違えたり、彼がしばしば強調したいと思っている音や跳躍をしくじったとしても、彼はあまり文句を言わなかった。ところが、表現、例えばクレッシェンドとか曲の性格などをおろそかにした時は激昂した。なぜなら、彼の言うところによれば、前者は偶然の過失だが、後者は知識、感情、注意力の不足に他ならないからであった。

これはピアノの弟子で、のちにピアニスト、作曲家として名を馳せるフェルナント・リースの証言である

ここから見て取れるのは、間違いは起こりうるが、表現は自分の怠りであるということであり、ベートーベンが冷静に分別をつけていることがわかる

「なんで間違えるんだ!」と頭ごなしに怒る人は今でも多い中で、本質を見極めた上で助言を行っているベートーベンに頭がさがる

もう一人のピアノの弟子であるチェルニーからも苦情めいた証言が出てこないところをみると、チェルニーもまたリースと同様に的確な助言を得ていたのではないだろうか

たったこれだけのことを引き合いに決めつけるのは難しいかもしれないが、ベートーベンの性格上、物事の本質を見極める能力が非常に高い人物だったので、レッスンで生徒を叩いたり噛み付いたりしたというのは、それなりに相手にも非があったはず

貴族の子どもとなると、身分を振りかざしたとか
音楽に対して侮辱的な態度または発言をしたとか
そういう態度を取ったのかもしれない

ルドルフ大公に対する発言の中の
「敬意を表することを学ばなければならない」
というところからも読みとることができる

やりすぎとも言えるベートーベンの行動は確かに癇癪持ちそのものかもしれないが、誰彼構わず感情に任せて怒っていたというわけではない

「少しはベートーベンの言い分も聞いてやれよ、喧嘩両成敗だろ」とベートーベンに肩入れする僕は、勝手に誤解をといておきたい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?