那智の祭り(6)ーお瀧前の神事から還御まで
那智の大瀧の前の祭壇に12基の扇神輿は並べられますが、この場所は瀧の正面ではありません。瀧は祭壇に向かって左斜めに位置します。
午後2時25分。御瀧本大前の儀。飛瀧神社の大前に神饌を供えて祈念します。飛瀧神社は那智の大瀧が御神体ですから、神殿はありません。あるのは授与所です。この儀式が終わりますと、見物人も一斉に帰ります。そこを一緒に扇神輿も戻ります。帰りは伏せた状態です。来る時は立てた状態で大松明による御火行事の大がかりなものですが、行きと帰りでは大違いです。
私が最初にこの祭りを見た時は雨でしたが、行事中は雨が止んでいました。終わったとたん降りだしました。ぐずぐずしているうちに、お瀧前の広場に茣蓙が敷かれました。何が始まるのだろうと傘をさして待ちました。そこで行われたのが田刈式と那瀑の舞です。
午後2時50分。田刈式。昼に行われた田植え式に続く儀式で、鎌をもって田刈歌を歌いながら田んぼに見立てた茣蓙の周りを三回まわります。見回り役(田長)が「千年万年、アッパレ、アッパレ!」と言いながら、まわりますが、だんだん偉そうにそりくりかえってきます。思わず笑えてきます。あの勇壮な御火行事の後にこんな面白い行事があるとは知りませんでした。扇祭りに行くたびにこの行事と那瀑舞を見てから帰ることにしました。
午後2時55分。那瀑舞(なばくのまい)。松明を奉持した白装束の人たちが、日の丸の扇子を持って「御瀧神幸(おたきみゆき)の歌」を歌い舞います。その歌とは、「けふのでましの あなあら貴(とう)と 瀧の流れも さらさらと 塵の残さず 神風ぞ吹く 神風ぞ吹く」というものです。この歌を聞くと、神がそこにおられるという感じがします。那瀑舞が終わるとお瀧前広場での行事は終わります。
せっかく祭りに来たのですから、飛瀧神社の授与所に寄ります。前年の扇神輿に飾られた扇を買い受けました。知人に差しあげたので手元にはありません。
本社に戻る前に、扇神輿渡御式の前に本社で行われる行事のうち、大和舞(稚児舞)
と御田植式について説明します。
午前11時。大和舞(稚児舞)。稚児による舞の奉納。以下の3つの舞を太鼓、笛、歌方にあわせて舞います。
壱、斎主舞(かんぬしまい)
那瀑(なばく)の歌 神のや御手(みて)もちひく白糸(しらいと)は 万代絶えぬ滝つなみ たきつなみ
弐、巫女舞(みこのまい)
大直日(おおなおび)の歌
天晴(あまは)れ あな面白 あな楽し
あなさやけ おけ あしめ おけ おお
参、沙庭の舞(さにわのまい)
有馬窟(ありまいわや)の歌
有馬や祭り花の幡(はた)立て 笛に鼓にうたい舞い 謠い舞い
花窟(はなのいわや)の歌
花のや窟は神の窟ぞ 祝えや子等(こども)
祝えこら 祝えこら
午後12時15分。田植式。木製牛頭•カイガ•エブリ等を持ち、笛と太鼓にあわせて田植歌を歌いながら田をめぐり、田長(検見)が検分します。これに続く収穫の田刈式はお瀧での神事が終わってから行われます。
田植えの歌
青い雲が差し出たよ 四三(しそう)の星かな ヤヨカアリヤ ソヤソヤソヤヨ アリヤソヤヨオ
午後3時30分。扇神輿還御。お瀧本から戻った扇神輿は再び礼殿前に立てられ還御の儀式が行われます。これが終わりますと扇神輿は神役により解体されて祭りが幕を閉じます。
さて、この祭りは那智大社に祀られている神が元の鎮座地に年に一度のお里帰りだと言われます。それが午後1時に出発して午後3時半には帰っています。さらに瀧では20分くらいの滞在です。席の暖まる暇もないと言いますが、まさにそういう状況です。神様のことですし、本社もお瀧も同じ那智山内にありますから、しばしば里帰りしているのかもしれません。古くは6月14日と18日に執行されたそうですから、14日に出かけて、18日に戻られたのかもしれないですね。